松本清張「波の塔」

 

新装版 波の塔 (上) (文春文庫)

新装版 波の塔 (上) (文春文庫)

 

 

新装版 波の塔 (下) (文春文庫)

新装版 波の塔 (下) (文春文庫)

 

 

遥か昔、検事が主人公の作品でおもしろいと聞き、ちょっと読んでは中断し、ということを何度か繰り返していたのですが、最近、読み通しました。

東京地検特捜部の若手検事と人妻の恋。政界、官界を揺るがす疑獄事件の捜査。その進展の中で翻弄される二人の関係。そして遂に・・・という流れですが、8回にもわたりドラマ化されているという、松本清張作品の中でも映像化という点では抜きん出た作品で、古さを感じさせない、なかなか読み応えのあるものでした。

(以下、ネタバレ注意)

作品が古いせいもあると思いますが、捜査や検察庁内部の描き方、制度や専門用語について、やや雑な感じはありました(例えば、供述の取り方や身柄の入れ方は、いくら当時でもこうではなかっただろう、とか)。ただ、徐々に捜査で浮上してくる贈収賄事件が、今でもあり得る、本質を突いた中身のもので、取り上げ方がさすが松本清張という印象も受けました。

最後に、ヒロイン(若手検事と恋仲だった人妻)が富士の樹海へ消えますが、なぜ、そうしなければならないのか、という必然性がいまひとつ感じられず、もやもやしたものが残りました。しかし、おそらく松本清張が描きたかったのは、捜査とか検察庁とか、そういう片々たるものではなく、人と人との貫かれる純愛、純愛というものがたどりがちな悲劇であったのではないか、純愛は悲劇で終わることでその美しさを永遠に昇華していく、そこが人の心を打ち、読み継がれ、描き続けられているのではないかということも感じました。

機会があれば画像化された作品のほうも鑑賞してみたいと思っています。