検事失格

検事失格

検事失格

話題になっているようなので、興味を感じて読んでみました。著者は司法修習45期で、41期の私とは近い上、新任明けで徳島地検勤務になったところも同じで、同じ時期に検察庁にいた共通性を感じるとともに、私自身の体験に照らしても、いろいろと考えさせられるものがありました。
特に感じたのは、
1 決裁の在り方やそれを通じて特に若手検事へ与える悪影響
2  取調べに対する歪んだ考え方の共有
3  中小規模地検における独自捜査やそれに関する捜査指揮の在り方
でした。
1については、検察庁における決裁制度の問題が古くから指摘され、「独任官庁」である検察官の存在と「同一体の原則」により組織として一体としての権限行使が求められる検察組織の在り方の矛盾が出がちなところですが、若手検事であった著者が受けていた決裁は、上司による無理難題の押しつけや強制といった、あってはならない決裁であることが多かったようで、いつまでたってもこんなことをやっていたんだな、と読んでいてため息が出る思いでした。そして、こうした悪い決裁が、特に、著者のような素直な性格の若手検事の考え方を次第に歪めていったというプロセスも、本書で克明に描かれています。
2については、1とも関連しますが、検察組織内では、特に捜査の場では権限が強大なだけに次第に独善化している中堅検事が一定数いて、被疑者に人権はない、とか、割るためには殴る、蹴る以外は何をやってもよい、などと真顔で語る人がいるものですが(そういった人々は本書の中でも紹介されています)、そういう人々が、平成に入り特捜部礼賛の風潮が強まる中で徐々に単なる少数派ではなくなり影響力を持ってしまって、取調べに関する歪んだ考え方の、一種の伝道者(エバンジェリスト?)のようになってしまった面があるのではないか、ということを、読んで感じました。
3については、経験した者でないとわかりにくいのですが(この点も経験者の著者により本書で語られていますが)、中小規模地検で、独自捜査(警察に依存せず自ら捜査を行う)を行うと、多大な負担が生じ警察送致事件へのしわ寄せも生じかねず、それだけに、特に組織を統括する次席検事が、そのあたりをよく見て、警察との協力態勢をうまく築きつつ捜査を進めるなど、デッドロックに乗り上げないようなマネジメントが不可欠なのですが、著者が経験した独自捜査のように、独自捜査経験が乏しい次席検事が、それも功名心にはやって進めると、無残な結果になってしまうということでしょう。そういった事情も、本書では具体的に紹介されています。読んでいて、これはまずいな、と特に思ったのは、次席検事が勝手に内偵捜査を進め、いざ強制捜査、という段になると3席検事に押しつけてやらせていることで、本来は、3席検事が主体になり慎重に進めるべきなのにそれが行われていないことで、失敗捜査につながって行く過程には、私自身も主任検事として独自捜査を行った経験があるだけに、身につまされるものがありました。
 この種の本は、「暴露本」として際物扱いされ消えがちですが、本書は、検察庁という組織が抱える負の側面を、そこに所属していた著者の目から見て、という限界は抱えつつも、切り取って紹介しているもので、広く読まれ今後の検察庁や刑事司法の問題を考える上での参考にされるべきではないかと感じられました。