保釈された者が実刑判決を受けた後、逃亡等を行ったが判決確定前にそれが解消された場合に刑訴法96条3項により保釈保証金を没取することができるか(消極、最高裁第二小法廷平成22年12月20日決定、判例時報2102号160頁)

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101224092335.pdf

刑訴法96条3項は,その文理及び趣旨に照らすと,禁錮以上の実刑判決が確定した後に逃亡等が行われることを保釈保証金没取の制裁の予告の下に防止し,刑の確実な執行を担保することを目的とする規定であるから,保釈された者が実刑判決を受け,その判決が確定するまでの間に逃亡等を行ったとしても,判決確定までにそれが解消され,判決確定後の時期において逃亡等の事実がない場合には,同項の適用ないし準用により保釈保証金を没取することはできないと解するのが相当である。

下のエントリーでも紹介したように、刑訴法96条3項は、

保釈された者が、刑の言渡を受けその判決が確定した後、執行のため呼出を受け正当な理由がなく出頭しないとき、又は逃亡したときは、検察官の請求により、決定で保証金の全部又は一部を没取しなければならない。

と規定していて、問題となった人は(刑訴法96条3項を知った上ではないと思いますが)、保釈中に控訴棄却判決、保釈が失効→上告し再保釈請求したが却下→所在不明になる→身柄を確保され収容→上告取下げにより確定という経過をたどり、「確定後の不出頭、逃亡」という状態が存在しなかったため、最高裁が、従来の通説に従い、没取を認めなかったものです。
なぜ、こういう事態が生じるかというと、判例時報のコメントでも解説されていますが、高裁判決の際、被告人に出頭義務がないことから、出頭しない被告人との均衡上、控訴棄却判決により保釈が失効しても直ちには身柄を収容しないという運用が一般的で、上告により未確定状態のまま所在不明になる、という事態が生じる場合があり、そうなると、既に保釈が失効していることから、取消決定、保釈保証金没取ということもできず、確定までは没取できないという、一種の宙に浮いたような状態が生じてしまう、ということですね。
滅多に生じないことではありますが、なかなか興味深いケースで、おもしろいと感じました。