公安検察 私はなぜ、朝鮮総連ビル詐欺事件に関与したのか

「事件」関係の部分は、ゲラの段階でチェックして読んでいましたが、それ以外の部分(著者の半生や法務・検察における体験談)は、まだ読んでいなかったので、そこを読んで、全体を読了した形になりました。
事件関係の部分については、読者の評価に委ねることにして、具体的なコメントは差し控えますが、先日、TBSドラマ「スマイル」の撮影に立ち会っていた際、ある重要な関係者から、ドラマにおける「真実」(松本潤さん演じる主人公が実際に体験したもの)と裁判における検察ストーリー(検察ストーリーで主人公は一旦、死刑判決を宣告され確定してしまいますが)があまりにも異なるが、こういうことは実際に起きるのか、と質問されたことを、読みながら思い出しました。その時、私が答えたのは、訴訟の中で認定される真実というものは、あくまでも証拠に基づく相対的真実であり、証拠が間違っていれば認定される真実も間違ったものになる、しかし、裁判所の認定、これ以上争えない状態になり確定、ということで、相対的真実であっても、争えない真実になる、といったことでした。
この本の特徴の一つとして、過去の公安事件の一端、捜査の内幕が赤裸々に語られているのが珍しい、ということがあるでしょう。亡くなった伊藤元検事総長による

秋霜烈日―検事総長の回想

秋霜烈日―検事総長の回想

で紹介されている話も、上記の本では紹介されていますが、著者の体験談は、公安の現場に身を置いていた者としてのものであるだけに、具体的で生々しく、歴史の証言という側面もあると思います。
ざっくりと総括するなら、戦前の思想検事の子として生育し、戦後の混乱期を経て、法務・検察の世界で次第に頭角を現し、認証官検事長)まで栄達した著者の、栄光と転落の物語、ということになるかもしれません。栄光と転落の後の「再生」の物語が、今後、続編として書けるか、というところに、正に私も関わっているわけで、控訴審でも、引き続き主任弁護人になる予定になっている中、まだ見えてこないゴールを目指して一つ一ついろいろなものを積み重ねる日が続く、と感じているところです。
一ブロガーとしての感想を書くつもりでしたが、やや、はみ出してしまいました。