弁護士増員 公正な社会築くために不可欠(平成20年11月5日・朝日新聞朝刊「私の視点」)

昨日の朝日朝刊に掲載されていて、ボツネタのコメント欄でも話題になっていたので、読んでみました。
これまでの我が国における司法改革を支えてきた基本的な考え方が述べられていて、特に目新しくもなく、また、私自身、こういった理想論を否定する気もないので、反発を感じることもありませんでした。
ただ、気になったのは、その中で、諸外国では日本よりも弁護士が多いという、よくある話を持ち出した上で、

人口比からして、日本で4千人程度の弁護士資格者が誕生しても何ら問題ないはずだ。

と簡単に片付けられていることについて、新規登録弁護士がこれほど就職難になり、また、特に若手弁護士で仕事が減ってきていることに危惧感を持っている人が多いという状況下で、「何ら問題ないはずだ。」と、簡単に片付けてよいものかと、素朴に疑問を感じました。
また、公正な社会を築くためにはそれを支える多くの弁護士が必要である、という理想論は間違っていないとしても、その「多くの弁護士」は理想だけで生きて行けるものではなく、それなりに生活して行く必要がありますが、そういったコストを、関係者が、国や地方公共団体が、社会全体が、きちんと負担するだけの環境が整備されないと、正に、現状のように、公正な社会が築かれる前に、弁護士が、就職先もなく干上がり立ち枯れてしまう、ということになりかねないでしょう。
さらに、

弁護士の仕事は、普通の知的能力と誠実さがあればできる。

とありましたが、残念ながら、そうではないからこそ、法学部、法科大学院、司法試験、司法研修所等々が、多大な費用や関係者の労力に支えられつつ存在しているのであり、賛同はしかねます。
理想は理想として高らかに謳うのは間違ったことではありませんが、理想ばかりが先走っても現実は変えられないし、理想ばかりが空回りすると、かえって現実のほうが悪化しかねない、ということも言え、今、必要なのは、現実を忘れた空疎な理想論ではなく、現実を見据え、現実を良い方向へと変革できる、地に足がついた理想論ではないか、と上記の記事を読んで改めて感じました。
長期的には法曹資格者を増員して行くべきであっても、現在の増員ペースが急激過ぎたことは、上記のような就職難からも明らかであり、増員ペースを落とすとともに、増えた法曹資格者が真に社会の中で活用されるような環境整備(例えば、公設弁護人事務所を全国に配置するなど)を併せて進め、増員と環境整備を車の両輪のように進めて行くことが、当面、必要ではないかと私は考えています。