業務遂行権に基づき業務の妨害行為の差止が認められた事例(東京高裁平成20年7月1日決定・判例時報2012号70頁)

損害保険会社が、窓口である代理人弁護士を通じた交渉によらず、様々な妨害行為に及ぶ相手方に対し、「業務遂行権」に基づく差止を求めた仮処分命令申立が、高裁で認められたというケースです。
所有権、人格権のように、侵害行為に対して侵害の中止等を求められる権利というものは、権利の中でもごく一部で、通常は不法行為による損害賠償の限度でしか認められない、ということになります。その意味では、比較的珍しいケースということは言えると思います。
本件では、決定中、業務遂行権を

法人の財産権及び従業員の労働行為により構成されるものであり、法人の業務に従事する者の人格権を内包する権利

と位置付けたうえで、業務遂行権に対する違法な妨害行為として差止が認められるためのの要件として、

①当該行為が権利行使としての相当性を超え、②法人の資産の本来予定されていた利用を著しく害し、かつ、これら従業員に受忍限度を超える困惑・不快を与え、③「業務」に及ぼす支障の程度が著しく、事後的な損害賠償では当該法人に回復の困難な重大な損害が発生すると認められる場合

を明示していて、今後の同種事案の先例としての価値は高そうです。所有権(財産権)や人格権等の総体としての業務遂行権というものを想定し、それに基づく差止請求の限界を定めて行こうという方法論は、支持できるように思います。
度を過ぎた苦情申立等に対し、民事的な司法救済を求める手段として、今後、活用される余地がかなりありそうです。