http://www.asahi.com/national/update/0304/TKY200803040310.html
第二小法廷は当時の状況について(1)非加熱製剤にHIVに汚染されたものが相当含まれ、使えば感染して多数の者が死ぬと予測できた(2)危険性の認識が関係者に共有されておらず、医師や患者がHIVに汚染されたものか見分けて感染を防ぐことも期待できなかった(3)国が明確な方針を示さず、取り扱いを製薬会社に委ねれば、安易な販売や使用が現実となる具体的な危険があった――と指摘。薬害発生を防ぐため、刑事法上も注意義務があったと認定した。
不作為犯が成立するためには、その前提として作為義務が存在する必要がありますが、作為義務をどこに求めて行くかは非常に難しい問題であり、この判例は、今後の不作為犯に関する議論や犯罪認定に大きく影響を与える可能性があると思います。
私が特に注目するのは上記の(2)で、具体的状況の中で「作為に及ぶべき者」が誰かを認定する上で、「他に作為に及ぶべき者を期待できない」という事情は、かなり重視されると見るべきではないかと思います。
この点は、インターネット上の誹謗中傷等で、情報発信者ではないプロバイダ等の刑事責任を考える上でも重要であり、単に、違法な情報の存在を知りつつ放置した、というだけでは犯罪は成立せず、具体的状況の中で、情報発信者にはもはや削除等の措置を期待できず、他に現実的な手段がない、といった場合に、はじめて犯罪の成立可能性が生じる、と見るべきではないかと思います。