覚せい剤:海上回収失敗は密輸予備罪 最高裁判決

http://mainichi.jp/select/today/news/20080304k0000e040054000c.html

密輸船が覚せい剤海上に投下し、別の船が回収して国内に持ち込む「瀬取り」取引を巡り、密輸の着手がいつなのかが争われた上告審判決で、最高裁第3小法廷は4日、「荒天で覚せい剤に近づけなかった場合、陸揚げの客観的な危険性は発生しておらず着手とは言えない。密輸予備罪にとどまる」との判断を示した。

1審・東京地裁は11月事件について「着手後」に失敗したとして同法違反の密輸未遂罪を適用。一方、2審・東京高裁は「国内に陸揚げされる現実的な危険はなかった」として「着手前」の予備罪と判断していた。未遂罪の法定刑は「無期懲役か懲役3年以上」で、予備罪の「懲役5年以下」より重いため争点になっていた。

犯罪というものは、陰謀、予備、未遂、既遂、といった形で、徐々に進行して行くものですが、進行すればするほど刑は重くなります。予備か未遂かは、実行の着手があったかどうかによりますが、犯罪により、実行の着手(犯罪実現の現実的危険性のある行為を開始すること)をどこで見るかは、なかなか微妙な場合もあり、本件も、そのような事案であったということができると思います。検察官も上告していたようですが、この種の「瀬取り」事案で、今後、未遂認定が困難になることを憂慮し、敢えて上告までしていたのでしょう。
実行の着手における「危険」は、あくまで現実的なものである必要があり、現実性をどこで見るかは具体的な証拠関係によりますが、本件では、「荒天で覚せい剤に近づけない」といった事情が、そういった現実性をかなり阻害していた、と判断されたものと推測されます。未遂に至っているかどうかが争われる事例は時々起きますから、今後の参考になる判例と言えるように思います。