思い出の田宮裕教授

私は、生前の田宮教授に直接お会いしてお話したことはありませんでしたが、

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20041030#1099112152

でも述べたように、司法試験受験中は、田宮教授の

刑事訴訟法入門

刑事訴訟法入門

を読んだり、確か田宮教授が日本大学で行われていた講義で使われていると聞いていましたが、「講義案」があって、それも読んでいました。当時は、

刑事訴訟法

刑事訴訟法

が、まだ出ていなくて(その前に法学教室での連載があり、毎回、読んでいましたが、連載が始まったのは私が司法試験に合格した後だったと思います)、この本が最初に出た時は、かなり読み込んだものでした。
司法試験に合格した際、口述試験で、刑事訴訟法は、主査が実務家、副査が田宮教授で、本でしか接したことがない田宮教授の姿を初めて見て、緊張しつつ、主査とのやり取りがありました。何となくぎくしゃくしたまま進み(内容は忘れてしまいましたが)、あまり良い印象もなかったのか、最後に主査が「どうも、あなたの考え方と私の考え方は違うみたいですね。」と、やや冷たく(という印象がありました)言われ、しまった、失敗したかな、と非常に不安になって、瞬間的に隣の田宮教授のほうを見た時、にっこりと笑われてかすかにうなずくような仕草をされ、あ、何とかなったんだな、と思った時のことが、今でも時々思い出されます。結局、田宮教授には、その後も直接お会いする機会がないまま、お亡くなりになり、残念としか言いようがありません。私にとっては、著作を通じて感じていた、田宮教授の温かい人間性に、非常に特殊な状況下ではありましたが、触れられたような気がして、その後も現在に至るまで、刑事法の勉強をする際の励みにもなっているような面があります。
たまたま、インターネットで、1998年に開かれた立教大学・田宮ゼミOB会での、田宮教授の生前のご様子に接し、

http://www.ls.kagoshima-u.ac.jp/staff/h-nakaji/tamiyaob.html

上記のようなことが改めて思い出されました。
田宮教授の逝去後、10年近くが経過し、その間、刑事法や刑事司法制度も大きく変わり、今後も変わり続けようとしていますが、今のこの時代にこそ、田宮教授のご意見、お考えを聞きたかった、と思っている人は、おそらく日本全国に数多くいることと思います。
田宮教授の域に到達することは到底無理ではあっても、その遺志を受け継ぎ、何ができるか、ということは、学んだ者それぞれが考え、それぞれの立場において実践すべき課題ではないか、という気がします。