今春、大学法学部へ入って、これから大いに法律を勉強しようという人は多いでしょう。また、既に法学部に在籍していて、そろそろ本格的に法律の勉強をやる気になっているという人もいると思います。法学部以外でも、例えば社会人になっていて、法律に興味を感じじっくりと勉強したいという人も含め、どういう勉強をしたらよいか、ちょっとコメントしてみます。なお、司法試験や各種の難関とされる法律系の国家試験で合格するというレベルを目指すことを前提とします。
なお、既にご存知の方も多いですが、私は、昭和58年に早稲田大学法学部に入学し、大学4年生の時(昭和61年)に司法試験に合格し、司法研修所、検察庁(11年5か月)を経て弁護士になり現在に至っている法律実務家で、平成22年から、法科大学院で刑事法担当の特任教授も務めています。
やはり、まずは憲法、民法、刑法の基本3科目から始める必要があります。この3科目は、旧司法試験では、第一関門である短答試験の科目であったもので、この3科目がまずマスターできなければ次へ進めません。憲法がわからなければ行政法がわからない、民法がわからなければ商法、民事訴訟法がわからない、刑法がわからなければ刑事訴訟法がわからない、といった、基本3科目が他の基盤になるという面もあって、まずはここからしっかりと固めておく必要があります。
初学者は、わかりやすい良質な講義を聞きながら、基本書(これは昔から受験の世界でよく言われてきたもので、定評のある概説書を基本書として手元に置き繰り返し読んでそれをベースに「自説」を構築する)をじっくりと読み込むことを、まず行うべきですが、そういった「わかりやすい良質な講義」が、すぐに受けられる環境にない場合もあります。そういう場合は、法律系の予備校が開講している、これら3科目についての基礎講座を受講する(通信制で受講したり販売されている講座のDVDを購入する方法もあります)ことも検討すると良いでしょう。
どの科目でも同様ですが、あれもこれも読む、という方法は、受験、といったことを目標にするのであれば好ましくありません。各科目について、基本書を1冊、判例百選(有斐閣から出ている、受験生がよく使っている判例集)、予備校のテキスト程度を繰り返し読み込む、ということにして、他に何かを読むことがあっても、基本書への理解を進める、深めるために読む、必ず基本書に立ち戻ってくる、ということにしておくべきです。
将来、司法試験合格を目指していて法学部在学中、という人であれば、まず当面の目標として、司法試験予備試験(これに合格すれば法科大学院を終了せず司法試験を受験できる)を目指す、という方法があります。そうすれば、明確な目標ができ勉強しやすくなりますし、予備試験に合格できなくても、法科大学院に進学し、その際、培った知識は十分生かせますから無駄になりません。
予備試験、司法試験に共通してあるのは、短答試験、論文試験ですが、まずは憲法、民法、刑法の3科目、それらが身についてきたら商法、民事訴訟法、刑事訴訟法やその他の法律科目へと勉強の対象を広げる中で、過去の旧司法試験、新司法試験、予備試験で出題された短答過去問を、丹念に解いて検討してみる、という作業を地道にやると、かなり役立ちます。解けた、解けなかったというだけで終わらせるのではなく、基本書を丹念に読み込んだ上で短答過去問を解いてみて、間違った問題、解けたが曖昧さが残る問題については、選択肢について丁寧に検討して、基本書で、必要な知識をチェックしながら身につけておくべきです。この作業を丹念に繰り返すことで、次第に知識が定着してきます。
論文対策は、昔からの方法としては、答案練習会(設定された会場、予備校で、出題された問題について答案を書き、後に添削された答案の返却を受け解説を聞いたり読んだりして復習する)への参加、ということになりますが、いきなり答案練習会へ、というのは、かなりきついものです。昔の早稲田大学法職課程教室では、答案構成講座という、答案を書き始めた人向けの講座があって、出題された問題について、各自が適宜、基本書等を参照しつつ作成した答案を提出し、解説を聞いて、添削された答案の返却を受けるという方法をとっていましたが、最初は、こういう方法が、答案の書き方も学べて良いと思います。ただ、こういった講座を見つけるのはなかなか大変かもしれません。力がついてくれば、答案練習会に積極的に参加して、どんどん答案を書いて力をつけるべきでしょう。なお、論文の過去問検討も、かなり参考になって有益なものです。
法律学習上、ゼミナール(演習)は、とても有益なもので、集まって議論しながら勉強する、ということも積極的にやるべきです。法学部にいる人は、ゼミもとって積極的に参加すべきでしょう。司法試験等の資格試験合格者や合格レベルに達しているような人をチューターにしてゼミをやるのも良いと思います。そういう人がいない状態で、仲間だけでゼミをやる際は、議論が一方的、偏ったものにならないように、注意しながら進める必要があります。こういう場で議論することは、自らの思考を客観的に見つめ直す良い機会になり、また、予備試験のような口述試験がある試験対策にもなります。
どこまで自習し、どの程度予備校を利用するかは、昔からある、悩ましい問題ですが、学習に投じられるお金も普通は限られているものですから、自分でできることは自分でやる、ということを基本としつつ、ここは予備校へ行く、ここは講座のDVDを買って聴いてみる、ここは先輩にゼミをやってもらって学ぶ、といった、うまい使い分けを工夫するべきだというのが、私の昔からの持論です。
最後に一言。法律の学習には(法律に限りませんが)、人により向き、不向きがあり、特に、難関とされている司法試験等のレベルに達するためには、適性がないと難しいものです。一生懸命取り組んでも、なかなか上向かない時は、簡単に投げ出すべきではありませんが、先輩や周囲の意見も聞いて、適宜、方向転換するべき時もあり、そうしても、それまで学んだことは別の道で生かすことができ無駄にはなりません。そういう可能性ということも念頭に置きつつ、法律の学習を大いにやってみようという意気込みでしっかりと取り組んでもらいたいと思います。