証拠採用却下:放火事件被告の自白調書 大阪地裁

http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20060204k0000m040144000c.html

杉田宗久裁判長は「被告は警察の過酷な取り調べに耐えかねて自白した」として北山被告の自白調書に信用性はないとし、証拠採用を却下した。

却下ということは、「任意性」が認められなかったということでしょう。証拠能力と証明力の区別がつかないと、新聞記者は務まりますが、司法試験には合格できないので、受験生の皆さんは注意して下さい。

杉田裁判長は「出火原因が分からないのに、刑事の勘のみに頼り、被告の言い分に耳を貸さなかった。任意同行の被告に、肩を組んだりしかりつける口調で話すのは常軌を逸している。明らかに違法で黙秘権も侵害している」とした。さらに、火災の半年前にもホットプレートのコンセントから煙が出た▽燃焼実験でも自供のように燃えなかった▽自供の放火状況だとよく燃えるはずの部分が焼け残っている−−などの点も指摘。動機についても「仕事でいくらストレスがあっても、唯一の自宅に火をつければ帰る家がなくなる。精神的に異常もなく自殺願望もない被告が、ストレスで自宅に放火するのは不自然だ」と述べた。

放火事件の場合、証拠構造として、「自白」が決定的な証拠になりがちで、それがなくなってしまえば、有罪認定の証拠がなくなる(したがって無罪)ということになりがちです。
どうしても警察捜査が先行しますから、そこで上記のような取調べが行われれば、仮に真犯人であっても、もはや任意性、信用性のある自白は得られず、後からフォローすることもできません。その意味では、慎重の上にも慎重に取調べを行わなければなりませんが、往々にして、上記のような取調べが行われて、事件がつぶれたり、無罪になったり、ということが起きてしまいます。「無実」であれば、真犯人が別にいるわけですが、捜査機関は、無罪判決を受けて真犯人を捜す、ということは、まずしないので、結局、事件は未解決のままうやむやになってしまうものです。
法務省警察庁は、取調べの可視化により、自白が得られなくなる、などと頑強に抵抗しているようですが、密室での取調べにより、かえって「見せかけの」自白しか得られず、事件がつぶれてしまう事例があるということも真剣に考慮すべきではないかと、この記事を見て改めて感じました。