判決中での弁護人批判

昨日の京都地裁におけるwinny正犯の判決公判で、裁判所が、弁護人の弁護活動を批判したことが、ちょっとした話題になっている。判決で、そういったことを行うことが許容されているのか、少し考えてみた。
刑事訴訟法上、有罪の判決については、

第333条
 被告事件について犯罪の証明があつたときは、第334条の場合を除いては、判決で刑の言渡をしなければならない。
第335条
1 有罪の言渡をするには、罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならない。
2 法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由となる事実が主張されたときは、これに対する判断を示さなければならない。

とある。
そして、刑事訴訟規則を見ると、

第220条(上訴期間等の告知)
有罪の判決の宣告をする場合には、被告人に対し、上訴期間及び上訴申立書を差し出すべき裁判所を告知しなければならない。
第220条の2(保護観察の趣旨等の説示・法第三百三十三条
保護観察に付する旨の判決の宣告をする場合には、裁判長は、被告人に対し、保護観察の趣旨その他必要と認める事項を説示しなければならない。
第221条(判決宣告後の訓戒)
裁判長は、判決の宣告をした後、被告人に対し、その将来について適当な訓戒をすることができる。

とある。
「ならない」「ならない」と、義務づけた条文が並ぶ中で、規則221条で「できる」という文言があることが注目される。被告人に対する適当な訓戒について、規則は、わざわざ「できる」ことを明示しているのである。このあたりに、判決で裁判所が何でも言ってよいわけではない、という立法者の意思が垣間見える。
上記のような規定を見ると、有罪判決では、裁判所が認定した罪となるべき事実(犯罪事実)、それを認定した証拠の標目(一種のリスト)、適用した法令を示すとともに、犯罪不成立等の主張に対しては判断を示した上、上訴期間や上訴申立書の差出先、保護観察の趣旨等についても併せて伝えておくことが求められているということになる。
弁護人の弁護活動に対する批判、というものは、どこにも出てこない。
実務上、判決で、「事実認定の補足説明」とか、「量刑の理由」といったことが述べられることがよくあり、これらは、条文上には含まれていないが、条文上に明示された事項に密接不可分な事項であり、そういったことを述べるのが許されるのは当然である。
しかし、弁護人の訴訟活動に対する批判、というものは、条文上明示された事項とはかなり異質なものである。断定はできないが、一種の「余事記載」であり、裁判所が、「判決」という場で述べるのは不適切な事項という考え方も成り立つのではないかと思う。例えば、政治的な問題を抱えた事件の判決の中で、裁判所が政治的な問題について「所感」を述べるといったことが起きた場合、そういったことを述べることが、判決としても適切か、という問題が起きるであろう。
裁判所としては、訴訟指揮権を持っているのであるから、訴訟の過程の中で、訴訟指揮権に基づいて、不適切と思われる弁護人の活動について問いただしたり、制止するなど、必要な措置を講じることができる。また、懲戒事由に該当すると判断すれば、弁護士会に対し、当該弁護士の懲戒を請求することも当然できる。
しかし、「判決」という場で、上記のような条文の趣旨をはみ出して、しかも、当該弁護人に対する告知・弁明の機会を与えないまま、その弁護活動を批判することが許されるか、については、私は、疑問を感じているところである。