ちょっと気になったブログ

いろいろとブログを見て回っていたところ、

「バイトブログ ライブドアでのアルバイト日記+ポータルサイト紹介」
http://insider.livedoor.biz/archives/8962390.html

というものがあった。その中で、

香田証生さん殺害映像に関するブログ削除の件タイトルが長いですが、これが今問題になっている件です。
一部記事が削除されているのは、殺害映像・画像へのリンクを貼ることが規約に抵触するという判断で行われているのだと思います。
また、第5条(禁止行為)には「その他弊社が不適切であると判断する行為」という条文もあり、「過激な性描写、残酷な表現、犯罪を誘発する表現、差別表現など、公序良俗に反する行為やウェブログ閲覧者に不快感を与える行為」が直接的になかったとしても削除は可能なのです。これは管理側としては当然の権限ですが。
それでも今回の件は、はっきりとした基準がなく微妙な領域なので、記事のみ削除して、ブログ自体は残すという方針を取っているのだと思います。該当された方はご了承ください。じゃないと、法務省の人権擁護局が出てきちゃいます。

と述べられていた。
これが、ライブドアブログの方針かどうか断定はできないし、そもそも、このブログの作者が、ライブドアのバイト君かどうかも正確にはよくわからない。しかし、もし、上記のような方針でライブドアが臨んでいるとすれば、非常に問題があると思う。
この点について、私は、近日中に商事法務から発売予定のプロバイダ責任に関する書籍の中で、次のように述べている。

このように、プロバイダが違法情報やIDを削除することはあるが、削除に当たりプロバイダの恣意的な判断が許されるはずがないことは言うまでもない。プロバイダは、電気通信事業法上、各種の義務(検閲禁止、秘密保持、不当な差別的取扱いの禁止など)を負っているし、利用規約ガイドラインは、利用者に対し一定の行為を禁止するものであると同時に、禁止されていない範囲については、利用者による自由な利用を保障するという側面も併せ有しており、利用者だけでなくプロバイダをも拘束する双務性を有している。多くの場合、利用者は、事業者であるプロバイダに対する「消費者」であり、消費者契約法等の法令による保護も及んでいることも重要である。そして、インターネット利用者が急増する中で、インターネットを利用した各種の表現行為が、いわゆる「思想の自由市場」の中で占める重要性も次第に増大していると考えられるところ、プロバイダが、恣意的な、あるいは安易な判断により、発信された情報や利用者のIDを削除するようなことになれば、憲法上も保障された優越的権利である表現の自由に対する重大な脅威となり、個人の自己実現や国民の自己統治上も由々しき問題になりかねない。プロバイダ責任が論じられる際、プロバイダの裁量が幅広く認められることが当然の前提であるかのようにされていることが少なくないが、裁量にも自ずから限界があるという側面も決して見逃されるべきではない。

ライブドアのバイト君(と称する人)の上記のコメントによれば、不適切と判断するものは何でも削除等が可能、ということになるが、それではあまりにも恣意的過ぎ、利用者の表現の自由に対する過剰な制約になりかねない。完全な自由裁量が許されるわけではなく、利用規約上、具体的に挙げられている事項や、それに準じるような事情があって、はじめて「不適切」という判断が許されると解するべきである。
しかも、このようなバイト君のような論理は、非常に危険な側面を持っている。それは、既にこのブログでも取り上げた、「発信者性」の問題である。何が適切であり何が不適切であるかについて、ブログ等の運営者がオールマイティーな判断権限を持つ、というのは、運営者にとっては、一見心地よいし、安心感があるかもしれない。しかし、情報についてそこまで判断できる、また、判断している、ということになると、「そこまで判断でき、また実際に判断している以上、あなたは実質的な意味での情報の発信者じゃないですか?」と言われかねない。そう言われたら、何と反論するのであろうか?是非聞いてみたいものである。情報について、過度に関わり合いを持たないことは(放置とか、そういったものとは別の次元の問題である)、プロバイダ等が無用な紛争や法的責任の泥沼に陥らないためにも必要なことでもある。
最後に一つ。上記のブログの中で、「じゃないと、法務省の人権擁護局が出てきちゃいます。」とあるが、人権擁護局の考え方が常に正しいとは限らないし、「長いものには巻かれろ」式のこういった発想は、本当にライブドアブログの運営者の考え方を反映しているとすれば、利用者の表現の自由の保障等の観点から、非常に問題があることも強く指摘しておきたい。
ライブドア堀江社長も、各方面でご活躍されるのは結構なことだが、足下をきちんとコントロールして固めて行かないと、今の勢いが長くは続かない恐れがあることも十分認識すべきではないかと思う。