ファイルローグ事件が、なぜ「はてな」問題の先例にならないか(私見)

小倉先生から問題提起をいただいているので、若干、コメントしておきたい。

http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/Listview01/32C6D9036C819AEC49256D090030AC9B/?OpenDocument
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/Listview01/B6A43882FB15CFB349256D090030AC9A/?OpenDocument

法曹でない方々には、読むのが難儀とは思うが、ざっと読んでいただければ、裁判所が言おうとしていることはわかると思う。特に「当裁判所の判断」が注目される。
この裁判例の当否は、とりあえず措くとして、上記のような観点から、理由を述べておく(ご批判は広く承る)。
ファイルローグ事件で裁判所が問題視しているのは、

a 被告サーバは,①被告サーバに接続している利用者のパソコンの共有フォルダ内の電子ファイルに関するファイル情報を取得し,②それらを一つのデータベースとして統合して管理し,③受信者の検索リクエストに応じた形式に加工した上,④これを,同時に被告サーバに接続されている他の利用者に対して提供し,⑤他の利用者が本件クライアントソフトにより,好みの電子ファイルを検索・選択し,画面に表示されたダウンロードボタンをクリックするだけで(送信者のIPアドレスを知る必要もないまま)当該電子ファイルの送信を受けることができるようにしている。このように,ファイル情報の取得等に関するサービスの提供及び電子ファイルをダウンロードする機会の提供その他一切のサービスを,被告エム・エム・オー自らが,直接的かつ主体的に行っている。利用者は,被告エム・エム・オーのこれらの行為によってはじめてパソコンの共有フォルダ内に蔵置した電子ファイルを他の利用者へ送信することができる。

という点でである。このあたりが、私が、「日本MMOの情報への関与が、通常とは異なる」と言っていることになる。敢えて言えば、裁判所の認定を前提にすると、日本MMOは、流通情報に対し中立の立場にある、というよりも、中立の立場にあるとは評価できないが中立であるかのように装っている、ということになろう。
はてな」について言えば、例えば利用者の著作権侵害について、上記で指摘されているような「主体性」を発揮する場面はない(一口に「場の提供」と言っても、提供しているものが量的にも質的にも全く異なっている)。あくまで、流通情報に対し中立の立場にあると言ってよい。
そして、裁判所は、上記のような認定を前提として、

b 本件サービスを利用すれば,市販のレコードとほぼ同一の内容のMP3ファイルを無料で,しかも容易に取得できること,音楽データをMP3形式に変換しても,音質はあまり低下しないことから,市販のレコードを安価に取得したいと希望する者にとって,本件サービスは極めて魅力的である。他方,現時点においては,利用者自らが著作した音楽等のMP3ファイルを不特定多数の者に無料で提供したり,他の不特定の者が著作した音楽等のMP3ファイルを取得したいと希望する者は,市販のレコードをMP3形式で複製した電子ファイルを提供し,又は取得したいと希望する者に比して,かなり少ないものと推測される。仮に,そのような音楽等の電子ファイルの取得を希望する者がいたとしても,本件サービスにおける検索機能は,希望する作品の所在を正確に確認するには不十分であり(本件サービスにける検索機能は,受信者が受信しようとする音楽が特定されていることを前提としているが,市販されているレコードに収録されていない音楽を受信しようとする者はその音楽の実演家,楽曲名等を具体的に把握していないことが多いものと推測され,このように実演家及び楽曲名を把握していない音楽を検索するには,本件サービスの検索機能は機能しない。),結局,本件サービスはそのような作品の電子ファイルを交換するためには有効に機能しないものと解される。
c 実際にも,前記前提となる事実のとおり,被告サーバが送受信の対象としているMP3ファイルの約96.7パーセントが,市販のレコードを複製した電子ファイルに関するものである。そして,市販のレコードを複製したMP3ファイルのほとんどすべてのものが,その送信可能化及び自動公衆送信について著作権者の許諾を得ていないものであり,本件サービスにおいて送受信されるMP3ファイルのほとんどが違法な複製に係るものであることが明らかである。被告エム・エム・オーは,本件サービスの開始当時から上記事態に至ることを十分予想していたものと認められる

と指摘している。上記の「96.7パーセント」という数字の妥当性は、証拠関係を見ていないので断言できないが、相当高率で、裁判所が指摘するようなファイルが存在したということは言えるようであり、裁判所の認定としては、このような事態は、日本MMOとしても予想していた、とされている。
こういった点も、「はてな」とは全く異なる。ファイルローグの場合は、サービスを提供すれば、100パーセントに近いほどの高率で(裁判所の認定を前提としている)上記のようなファイルが存在し、そのほとんどすべてが違法複製によるものということであり、ここまでの状態ということである上、上記のような「主体性」も認定されているのであるから、そういった状態を防止し、排除するための措置が求められてもやむをえないと言える。私見でも、「特段の事情がある場合に、それに応じた措置が求められる」ということを否定しているわけではない。
それに対して、「はてな」の場合、そういった意味での「特段の事情」は、何ら認められない。著作権侵害等の問題行為に及ぶ利用者がいるかもしれないが、あくまで、ごく一部であり、原則に則った対応を行うことが十分許容される。
そもそも、「はてな」の場合、利用者の本人確認を行っていても、検閲等は行わず情報発信は利用者の判断によるわけだから、本人確認をいくら厳格に行っても、違法状態は出現するわけであり、「本人確認の励行」が「違法状態の防止」に結びつくわけではない。
付け加えると、裁判所は、上記のとおり、(私の理解では)「特段に事情がある本件において、それに応じた措置が講じられているか」、という観点から、

(この点,前記前提となる事実のとおり,被告エム・エム・オーは,本件サービスの利用規約において,著作権を侵害する電子ファイルの送信可能化行為を禁止しているが,本件サービスを利用する者の身元確認をしていないのであるから,同規約の実効性が低く,本件全証拠によっても,他に,著作権侵害を防ぐに足る措置を講じていると認めることはできない。)。

と述べているのであり、流通情報について中立の立場にあるプロバイダ等一般が、利用者の身元確認を行っておかないと「著作権侵害を防ぐに足る措置を講じていると認めることはできない」などとは一切言っていない。また、裁判所の論理をたどると、そういう文脈で述べているわけではないということも読み取れる(と私は考えている)。
特定の事例に対する事例判断であり普遍化、一般化されるような裁判例でではない、と私が主張しているのは、こういった理解による。