「発信者」性について(小倉弁護士の見解に関連して)

http://blog.goo.ne.jp/hwj-ogura/e/c773b5ef8462a91b80a1ea1abc83d0e7

で、小倉弁護士が論じられている中で、プロバイダ責任制限法上の「発信者」に該当するかどうか(発信者性)という問題が取り上げられている。
小倉弁護士は、

そして、ファイルローグ事件地裁判決は、著作権法上の自動公衆送信の主体=プロバイダ責任制限法上の「発信者」という判断、および、戸籍上の氏名および住民票上の住所を正しく登録させていないから過失ありという判断をするにあたって、「mp3ファイルに関しては著作権侵害ものが約97%云々」という特殊事情があることを前提としているのか、逆に言うと、著作権者等からファイルローグ事件地裁判決を引用して責任追及がなされたときに、著作権侵害情報の割合がそれほど高くないから、著作権法上の自動公衆送信の主体=プロバイダ責任制限法上の「発信者」という判断、および、戸籍上の氏名および住民票上の住所を正しく登録させていないから過失ありという判断にはならないのだということを裁判所は言ってくれるのかというと、具体的な事案の違いから適用される規範を峻別するのは難しいのではないかという気がします。blog事業者を免責するには、ファイルローグ地裁判決の論理自体が否定される必要があり、両者を併存させるのは難しいのではないかと言うことです。

とのご意見であるが、私は、ファイルローグ事件における裁判所の判断は、「mp3ファイルに関しては著作権侵害ものが約97%云々という特殊事情があることを前提としている」と言うよりも(その点も一つの重要な判断材料にはなっていると思うが)、より本質的なのは、運営者の、情報への関わり方、関与態様であったのではないかと考えている。
既に紹介した、東京地裁の中間判決を見ると、発信者性について、裁判所は、

そこで,被告エム・エム・オーが,同法2条4号所定の「発信者」に当たるか否かを検討する。
前記のとおり,著作権法の関係では,被告サーバは,電子ファイルを共有フォルダに蔵置した状態の送信者のパソコンと一体となって,著作権法2条1項9号の5ロ所定の「公衆送信用記録媒体に情報の記録された自動公衆送信装置」に該当し,また,送信者のパソコンの共有フォルダに蔵置された電子ファイルの送信可能化を行った主体は,被告エム・エム・オーである。そして,プロバイダ責任法の関係でも,前記認定した事情に照らすならば,同法2条4号の「記録媒体」に当たるものは,電子ファイルを共有フォルダに蔵置した状態の送信者のパソコンと一体となった被告サーバであると解すべきであり,また,上記「記録媒体」に電子ファイルを蔵置した主体に該当する者は,被告エム・エム・オーであると解すべきである(なお,確かに,被告サーバに接続していない状態の送信者のパソコンに電子ファイルを蔵置した主体は,被告エム・エム・オーではなく,当該送信者自身であると解すべきであるが,上記パソコンを被告サーバに接続し,送信者のパソコンと被告サーバが一体となった段階においては,これに蔵置されている電子ファイルのその蔵置の主体は被告エム・エム・オーであると解するのが相当である。)。したがって,被告エム・エム・オーはプロバイダ責任法2条4号の「記録媒体に情報を記録した者」に当たると解すべきである。
そうすると,被告エム・エム・オーは同法2条4号所定の「発信者」に該当するから,プロバイダ責任法が施行前の行為についても適用されるか否かの判断はさておき,被告エム・エム・オーの行為について,プロバイダ責任法3条1項本文により,その責任を制限することはできないというべきである。

という判断を示している。
この判断の的確性については、証拠関係にも絡むので、ひとまず措くが、上記のとおり、「被告サーバは,電子ファイルを共有フォルダに蔵置した状態の送信者のパソコンと一体となって」等と、P2P特有の、情報に対する特殊な関与態様が認定された上で、発信者性が肯定されるに至っているのである。
小倉弁護士は、

著作権者等からファイルローグ事件地裁判決を引用して責任追及がなされたときに、著作権侵害情報の割合がそれほど高くないから、著作権法上の自動公衆送信の主体=プロバイダ責任制限法上の「発信者」という判断、および、戸籍上の氏名および住民票上の住所を正しく登録させていないから過失ありという判断にはならないのだということを裁判所は言ってくれるのかというと、具体的な事案の違いから適用される規範を峻別するのは難しいのではないかという気がします。

とのご意見であり、確かに、権利者は、権利擁護のためにありとあらゆる主張を展開するという傾向もあるので、今後、そういった「責任追及」があり得ないとは言えないが、もし、「はてな」のような立場の者に対して、そういった主張が出れば、
ファイルローグ事件における被告の、情報への関与の在り方は、特殊なものであり、到底、普遍化、一般化できるものではなく、一般的なプロバイダ等を広く発信者に取り込むという先例にはなり得ない」
ファイルローグ事件では、違法複製ファイルが流通する蓋然性が極めて高いという、特段の事情が認められ、それに応じた注意義務として、本人確認等が問題になったが、そういった特段の事情が認められない場合に、本人確認義務等を一般的なプロバイダ等に課す法的根拠は何ら見当たらないし、多種多様な情報が流通するインターネットの本質や、プロバイダ責任制限法の立法趣旨等から見ても、特段の事情もないのに、そういった法的義務を課すのは明らかに誤っている」
「特殊な事情があったファイルローグ事件で示された判断を、他の事件に一般化することはできず、また、そうすべきでもなく、適用される規範は厳に峻別されるべきである」
といった反論は可能かつ有効で、十分対抗できると考えている。
ただ、ファイルローグ事件の教訓として、いくら「場の提供」と言っても、あまりにも違法な情報が横行するような状態になってしまうと、上記のような「特段の事情」が肯定されて、それに応じた注意義務が課されかねず、そうならないためにも、プロバイダ等としては、一般的・網羅的な監視義務はないとしても、「健全な場」に向けた態勢整備の努力を日頃から怠るべきではない、ということは言えると思う。