ウイニー幇助公判について(分析・その3)

今度は、弁護人の冒頭陳述を見ることにします。

http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2004090100238&genre=D1&area=K00

参考までに、私の公判速報を引用すると

本件は、公訴棄却相当であり、それが認められない場合であっても、被告人に対しては無罪が宣告されるべきである。
 本件起訴は、ウイニーの開発行為そのものを処罰しようとするもので不当である。ウイニーは優れたソフトである。それを被告人は、一人で、ごく短期間のうちに開発した。検察官はP2Pソフトについてあまりにも無理解である。被告人の処罰についての法的根拠が欠けており、だからこそ、検察官は、内容が不明確な幇助を持ち出してきたものである。このような起訴は罪刑法定主義に反する。本件起訴はソフト開発に打撃を与えるものであり、日本の国益に反する。弁護人が、公訴提起そのものを違法とする理由はここにある。
 (被告人の身上、経歴について触れた後)
 ウイニー開発の背景について述べる。P2Pモデルは、サーバクライアントモデルに比べて、サーバへの負荷やダウンを招くことがないなど、優れたものである。総務省のIT政策大綱においても、P2Pは推奨されている。
 このような状況の中で、被告人はウイニーを開発したものであり、著作権侵害をまん延させるといった意図はなく、サイト上にも、違法なファイル交換には使用しないようにと注意書きをつけていた。
 このようなソフトの開発等を幇助犯に問うこと自体がおかしい。それが認められるようなことになれば、コピー機、ビデオデッキ、携帯電話、自動車といった、犯罪にも使用されうるものを開発、提供した者は、ことごとく幇助犯になるが、あまりにもおかしい。
 検察官は、ウイニーの特徴である、情報流通性の高さを問題にしているが、むしろ問題であるのは、コピープロテクトを解除するなどした正犯者の側にある。
 被告人は、違法行為の抑制を呼びかけており、悪用の可能性も、あくまで可能性として認識していたに過ぎず、これをもって幇助の故意と言うことはできない。
 被告人によるウイニー改良行為も、ファイル交換機能強化のためではなく、BBS機能強化等のためである。、ウイニーが適法なソフトである限り、その改良行為も適法である。
 本件起訴によるソフト開発者に対する萎縮的効果には多大なものがある。
 被告人は無罪である。

といった内容でした。
「その2」と同様に、私の手元にある、朝日新聞掲載の「弁護側冒頭陳述(要旨)」も参考にすることとします。
弁護人の冒頭陳述の特徴は、
1 ウイニーの優れた機能や、それを開発した被告人の優秀性を強調
2 検察官の公訴提起自体が世界に類を見ない特異なものと非難
3 ウイニーの開発等が処罰されるのであれば、他の社会的に有用なツールの開発者等も処罰されかねないが、極めて不当であり、明文の処罰規定もないのに、幇助犯という曖昧な構成要件で処罰するのはおかしいと主張
4 被告人がウイニーを開発、公開、配布した目的は、あくまで社会的に有用なP2Pソフトを世に出すためであり、著作権侵害を援助、助長する意図はなく、あくまで可能性の認識にとどまると主張
5 被告人には、正犯の著作権侵害を援助、助長する意図もなく、可能性の認識でしかなかったと主張
といったところにあると思います。
主張を、それ自体としてみた場合、公訴棄却の申立からも一貫しており、それなりにわかりやすいと言えます。
上記の主張のうち、4と5は、検察官が主張する、動機、確定的故意、確信犯(著作権侵害へ向けた)に対する反論です。被告人は、起訴状に対する認否の際にも、ウイニーの公開や配布等は技術的なテストのために行っていたと陳述しており、弁護人の主張は、被告人の陳述に沿うものになっています。この点については、「その2」で指摘したように、検察官は有罪立証の柱と位置付けていると見られ、今後、検察官の立証と弁護人の反証が、熾烈に繰り広げられることになると予想されます。
私が、やや問題ではないかと考えているのは(弁護人としては、今後、徐々に明確にするつもりかもしれませんが)、被告人の行為が幇助に該当しない、ということについて、明確な法的根拠、該当条文が提示されていないということです。
幇助犯の構成要件は、刑法理論上、「補充を必要とする構成要件」とも言われ、そもそも、具体的な事件ごとに構成要件が明確にされることが予定されています。したがって、幇助犯の構成要件が曖昧だから、それで処罰すべきではない、という論理は、実は、「幇助犯というものは、そもそも、そういう性質のものだ」と言われれば、効果的な反論が困難であり、だからこそ、幇助犯が成立しないということについて、明確な法的根拠、該当条文が提示される必要があります。
私は、そこが、弁護人冒頭陳述の最大の弱点(現段階で)であると考えていますし、もし、その点について、弁護団として決めかねている面があるのなら、早期に方針を明確にした上で、その方針に沿った効果的な立証計画を立てる必要があると考えています。

(続く)