黒川賭け麻雀事件が投げかけるもの

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こちらでもアップしておきます。

黒川東京高検検事長(既に元検事長だが)賭け麻雀事件の背景には、マスコミと一部の幹部検察官の癒着があり、さらにその背景には、事件報道の在り方が横たわっている。
日本の事件報道では、通常の捜査当局発表情報を超えた部分で、各社がしのぎを削りやすい。特に、世間の注目を集める事件ではそうなる。誰が捜査対象か、捜査当局はどういうストーリーを描いているのか、どういう証拠があるのか、いつ強制捜査に着手するのか等々。強制捜査に着手した後は、事件の中身や余罪への展開状況など、さらに各社は競争し、他社に先んじて報じようとする。
そういう競争で、他社に先駆けようとすれば、独自の調査では到底間に合わず、捜査当局の関係者に「食い込んで」「取りすがり」、そこから情報を取ろうとすることになりやすい。黒川氏がその地位にあった東京高検検事長職は、東京地検を始めとする管轄下の各地検から様々な情報が上がってくるし、その中には東京地検特捜部の情報もある。マスコミ側から見れば、東京高検検事長は、宝の山を抱えたような人物であり、求められれば麻雀接待をやって、ハイヤーで送り迎えしても、情報が取れれば(その可能性さえあれば)、十分に引き合う人物ということになる。
そういう癒着の構造の中で、捜査当局が情報操作を行うための意図的なリークも日常茶飯事として行われる。これについては、以前、ブログで書いたことがある。捜査当局とマスコミは、癒着しつつ、そういう持ちつ持たれつの関係にある。

検察とリーク

https://yjochi.hatenadiary.com/entry/20100121/1264048021

しかし、そういう癒着の構造の中で得られる情報が、どこまで信用できるものなのか、読者にとってどこまで必要なのか、多大な疑問の余地がある。捜査当局幹部が言ったから正しいとは限らない。単に、歪んだ証拠評価で一方的な思い込みで述べているだけかもしれない。情報操作のため、時には虚偽を交えて意図的にリークしているのかもしれない。過去に、捜査過程で誤った情報がマスコミに垂れ流されたケースは山のようにある。
また、接待賭けマージャンをするようなズブズブの癒着関係から、例えば、いつ強制捜査に着手するという情報が得られて、着手時期の数日前に報じられたからと言って、読者にどれほどのメリットがあるだろうか。
結局は、マスコミ各社の過度な競争意識が、事件報道のために捜査幹部に食い込みたいという思惑につながり、癒着や時に不正確な報道、当局からのリークを生んでいる、そういうことだと思う。近時、そういう中での女性記者へのセクハラも問題になることがあるが、そういう歪んだ状況、関係が生んだ副産物と捉えればわかりやすいだろう。
捜査当局が、証拠隠滅や逃亡等の恐れも考慮しつつ、国民に対して出すべき情報はもっと積極的にリリースする、マスコミも、そういった情報を報じつつ、事件の性質、重大性により、必要に応じて調査報道も行い、その過程で、捜査当局関係者に(単にネタをくださいと癒着して取りすがるのではなく)接触する、という、本来あるべき関係性が確立されれば、今回の黒川賭け麻雀事件に見られるような醜い癒着の構造からは脱却できる流れになるだろう。
そういった意味で、今回の事件は、従来の事件報道の在り方や、そのためのマスコミからの捜査当局へのアプローチの仕方、関係の取り方に、根本的な問題提起をしていると見るべきだと自分は考えている。

                              以上