名誉毀損でヤフーに情報開示命令 慰謝料30万円支払いも 神戸地裁

http://www.sankei.com/west/news/150206/wst1502060017-n1.html

大西裁判長は「(男性が)情報開示を受ける正当な理由がある」としながらも、ヤフーが発信者の氏名や住所などの情報を持っている証拠はないとして、発信者のメールアドレスやインターネット上の住所である「IPアドレス」などの開示が限度とした。また、「名誉が違法に侵害されていることは明白」と指摘、記事の削除を認めた。

こうしたプロバイダ責任について、民事面では、いわゆるプロバイダ責任制限法が、3条で、

特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下この項において「関係役務提供者」という。)は、これによって生じた損害については、権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、次の各号のいずれかに該当するときでなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は、この限りでない。
1  当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき。
2  当該関係役務提供者が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。

と規定しています。
一般的な解釈としては、この規定は、情報の発信者そのものではないプロバイダに、流通する情報を網羅的に常時監視する義務はない、ということを前提として、上記のような「権利が侵害されていることを知っていたとき」「権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき」でなければ損害賠償責任を負わないとして、プロバイダの責任を限定したものと考えられています。
ただ、何をもって「権利が侵害されていることを知っていたとき」「権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき」にあたるかは、私が知る限りでも、それほど問題となった具体例はないはずで、また、プロバイダに損害賠償責任を認めた裁判例は、私も、聞いたことはありますが極めて少ないはずです。
私も、こうしたプロバイダ責任が問題となるケースについて、プロバイダから相談を受けることが時々ありますが、訴訟前の、資料が限られた状態で判断を求められるプロバイダ側としては、なかなか判断が難しい場合も少なくありません。例えば名誉毀損であれば、違法性阻却事由が存在する可能性を慎重に検討して、それがおよそないだろうと考えられる場合は、「権利が侵害されていることを知っていたとき」「権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき」に該当すると評価されることはあり得ます。また、訴訟前の時点では免責の範囲内、であっても、訴訟の中で権利を侵害されたとされる側の主張、立証が進んでくることで、「権利が侵害されていることを知っていたとき」「権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき」に該当するという評価がされるということもあり得るところで、削除の求めに対して、一旦、応じないという判断をしても、それに固執せず、その後の流れを踏まえて柔軟に対応することも、プロバイダには求められていると思います。
そういった意味を含め、このケースは、珍しいだけでなく、プロバイダ責任を、今後、考える上で参考になる可能性があるものでしょう。判決文を見てみたいと思います。