ユーザーの懸念に回答 ストリートビューはオプト・アウトがベスト、グーグル

http://www.atmarkit.co.jp/news/200809/29/google.html

グーグルは9月29日に都内の本社で開いた定例会見で、こうした懸念に対する同社の考え方と取り組みを説明。事実上の釈明会見を開いた。

法的解釈についても、新技術を使ったサービスの勃興期には混乱がつきものだという。ウォーカー氏が挙げるのは、約100年前の民間旅客機ビジネスの立ち上がり時期の例だ。住居の上を飛ぶことが“不法侵入”に当たるかという法的解釈の議論があったという。しかし「航空機が飛ぶルート上のすべての住人から許可を取るのは現実的ではない」(ウォーカー氏)、同様の理由で、ストリートビューについても「オプト・アウト方式がベストではないか。われわれは現実的で効率的な方法を模索している」(同氏)と話す。

日本における法的問題が論じられているのに、どう見ても日本法に詳しいとは思えない米国の法務担当者がやってきて、ピントのずれた昔話をした上で、これがベストではないか、などと言っているようでは、今後、起き得る訴訟等への対応は大丈夫なのかと、他人事ながら心配になってきます。
例えば、不要自転車を集めて有効活用する目的で、あちらこちらに置いてある自転車を、所有や占有が放棄されているかどうかわからないものも含め一切合財トラックに積んで運び去り、「返してほしい人は言ってくれ」などと呼びかけるような「オプト・アウト」方式をとれば、いくら、その方法がベストであり現実的で効率的な方法を模索している、などと言い張っても、窃盗罪で検挙される可能性がかなり高いでしょう。ストリートビューがやっていることには、それと本質的に変わらない面があると思います。
ストリートビューには、他人に対する権利侵害を不可避なものと知った上で敢えてサービスを提供しておいて、後から文句を言わせて是正させるという、インターネットにおけるサービス提供にありがちな、粗雑、横着な性格があって、そこを厳しく突っ込まれれば厳しい局面に追い込まれる、という弱点を抱えています。
訴訟が起きてもたいした数ではなく、儲けに儲けた金を使って適当に対処すれば良い、やったもの勝ちだ、くらいに考えているのではないかと思いますが、インターネットの世界で、他と隔絶した巨大な社会的権力が誕生した場合、いかに危険な存在になるか、ということをまざまざと見せつけている、という側面は指摘できるように思います。

追記:

ストリートビューが、ユーチューブやインターネットオークション等のサービスと本質的に異なるのは、後者においては、問題ある(権利侵害等の)コンテンツをアップロードするのはあくまでユーザーであり、サイト管理者としては、インターネットの本質上、知らないまま問題あるコンテンツがアップされる、ということを完全には排除できないのに対し、前者では、問題あるコンテンツ(全体の中ではごく一部であっても)をアップロードしているのは、サイト管理者自身であり、「知らないままアップロードされたものは、後から知ってからでしか削除できない。」という弁解が、そもそも成り立ちようがないという法的性質を持っていることでしょう。
そういった、自らが発信する情報の適法性、妥当性については、情報発信者自らが適法性、妥当性について責任を持つ、問題があれば責任をとる、ということについて、異論が生じる余地はないと思います。
この点は、プロバイダ責任制限法の中にも注意的に明らかにしている条項があって、損害賠償責任制限に関する第3条中の1項で、「ただし、当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は、この限りでない。」とされています。これについて、私の手元にある「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律ー逐条解説ー」(平成14年5月・総務省)では、

そのような場合に、発信された情報の流通によって生じた損害については、関係役務提供者は、当然、当該情報の発信者としての責任を負うべきものであり、本項本文の要件を満たすか否かにかかわらず、一般則に従って責任を負いうることとなる。
(11ページ)

と解説しています(「当然」とされているところに注目すべきでしょう)。
その意味で、ストリートビューにおいて提供されているサービス中で他人の権利を侵害しない、法令違反を行わない、ということについては、専ら、情報発信者であるグーグルが全般の責任を負うべきものであって、適法性については事後ではなく事前に担保できるよう、体制を整備すべきでしょう。そういった体制整備の中には、通報や苦情を迅速、的確に受け付ける、といったことも含まれます(この点は、狭い意味での適法性という観点だけではなく、企業の社会的責任、という観点も必要かもしれません)。
少なくとも日本法の下においては、自らが発信する情報に問題を抱えたままで、しかも、そうと知った上で、「オプト・アウト方式がベストではないか。」などとうそぶいている場合ではない、ということは指摘できると思います。