予審判事

サッカー監督の八百長疑惑の関係で、

八百長疑惑…予審判事は女性に確定
http://www.daily.co.jp/soccer/2014/12/20/0007597638.shtml

と、「予審判事」という耳慣れない裁判官が出てきていますが、私の知る限りでちょっとコメントしておきます。
予審判事、というのは、予審を主宰する裁判官で、予審というのは、有罪、無罪を判断する刑事公判の前に、公判に付するかどうかを決めるため行われる、広義の捜査手続の一環としての制度です。日本の旧刑事訴訟法(現行の刑事訴訟法の前の、大正時代に成立した刑事訴訟法)にも、そういった予審制度が置かれていました。
捜査は第一次的に検事、警察官が行うものの、強制処分は裁判官に行わせ、公判に付するかどうかを決める局面に至った場合は、予審に付し、捜査を「司法化」して、裁判官に公平な立場で検討、判断させるというものです。法体系として、世界的に、大陸法系、英米法系の二大系統がありますが、そのうちの大陸法系で採用されてきた制度で、現在も、問題となっているスペインのほか、フランス、イタリアなどヨーロッパを中心に根強く残っています。
予審判事が捜査を行うことになりますから、必要があれば捜索、差押や関係者の身柄の拘束(これは各国の法制度によりやり方はいろいろですが)も裁判官の判断ででき、やり方によっては極めて強力な捜査権力になり猛威を振るうことになります。例えば、イタリアでは、マフィア捜査に予審判事が大活躍し、逆にマフィアから暗殺された予審判事も出たことがあるほどで、優秀、有名な予審判事もヨーロッパでは複数出てきています。
利点としては、捜査が司法化されることにより、恣意や偏りが避けられるとされていますし、予審が行われることにより公判に付される事件のフィルタリングが行われるメリットもあると思われますが、予審判事の独善的な予審運用により関係者が多大な迷惑を被ったり、といったケースもあるようで、また、終戦までの日本では、予審制度が、検事、警察官による捜査に「屋上屋を架する」ものであるという批判も根強く、予審廃止論が強く主張されていたという経緯もありました。今となっては当時の具体的状況がわかりにくいのですが、終戦までの日本では予審が形骸化し、文字通り屋上屋を架する」ような状態があったのかもしれません。この辺は運用如何で変わってくるところであると思います。
戦後できた日本の現行刑事訴訟法は、予審制度を採用せず、予審判事が持っていた強制処分に関する権限は令状裁判官へ、捜査権限は捜査機関へと分配した形になっていて、令状裁判官による司法的抑制が、期待されたようには機能していないという根強い批判があるのは周知の通りです。私自身は、日本でも、事件によっては、予審やそれに準じた手続を捜査にかませて真相解明と人権保障のバランスを図ることも検討されてしかるべきではないかと考えています。
ヨーロッパでの予審制度は、イタリアのように、予審判事が強力に捜査を推進するというものが多いという印象で、スペインの予審制度も、かつて中国の江沢民主席(当時)を捜査対象にするなど、予審判事が積極的に「動く」予審制度であると推測され、八百長疑惑について、積極的な解明へと強力に動く可能性が高いのではないかと思われます。
今後の予審の行方が注目されるでしょう。