検察、裁判証言を指示か 宮城3人殺傷、密室で「予行練習」

http://www.asahi.com/articles/DA3S10909617.html?ref=reca

宮城県石巻市で2010年、3人を殺傷したとして死刑判決を受けた元少年(22)の裁判員裁判で、検事が証言内容を指示した疑いが浮かんだ。事前に証人となる共犯者に、「(元少年の)犯行は計画的」と法廷で話すよう迫ったという。

今日の朝日朝刊1面に大きく出ていて驚きましたが、出廷する証人との事前の打ち合わせ(証人テスト)の在り方が問題になっています。
私は、通算で2年ほど、公判部に所属していたことがあり、こういった証人テストは何度もやったことがありますが、捜査段階で取調べを受け供述調書が作成されていても、尋問事項やそれに対する証言(こういった証言をするであろう、ということ)を予め整理しておかないと、予定時間以内におさまらなかったり、尋問される証人が何を聞かれているか理解できずに混乱する、といったことが起きてしまいますから、適正に行われるのであれば証人テストは有益かつ必要なものです。しかし、証言を誘導したり押し付けたりするような証人テストであれば、それは有害であり許されないと言うしかないでしょう。
かつての公判立会検事は、重要な証人については検察官調書が存在することを前提に、公判ではその内容をできるだけ証言として出すことを目指し、証人が調書通りに証言しない場合は、いわゆる2号書面(刑訴法321条1項2号後段所定の要件の下で証拠能力が生じる書面)として証拠として採用してもらう、そこまでやればやるべきことはやっていて、それ以上は無理、という割り切りで仕事をしていたものでした。調書通り証言しないのであれば調書の証拠採用を目指す尋問に切り替えていて、事前の証人テストの段階で強引に誘導したり押し付けたり、といったことは、まったくなかったとは言えませんが少なかったと思います(特捜部が起訴したような特殊な事件は別にして)。その背景には、裁判所が、2号書面を、よほどの特殊事情がない限り採用してきたという事情があったものと思われます。しかし、裁判員裁判開始の頃から、裁判員裁判では公判での証言が重視され2号書面がかつてほどは採用されなくなり、また、裁判員裁判以外でも、検察庁での取調べの酷さが知れ渡るようになって裁判所が安易には2号書面を採用しなくなってきたという傾向があります(まだまだ採用されやすい現状にはあると思いますが)。こうした、公判立会検事が証人テストで無理をする、という背景には、そうした事情の変化があるのではないかという印象を、私なりの経験に照らして受けました。
こういう問題のある証人テストがまん延するようなことでは、適正な証人尋問が困難になりますから、取調べの可視化を考えるにあたり「取調べ」を狭く限定せず、証人テストのような取調べに準じるものにも対象を広げる、ということが真剣に検討される必要がありそうです。