プロバイダーの賠償責任を否定 最高裁 発信者情報開示は確定

http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/100413/trl1004131750005-n1.htm

同小法廷は「賠償責任を負うのは、書き込みによる権利侵害が明らかで、情報開示請求に正当な理由があると認識しているか、これらが明白なのに認識できなかったことに重大な過失があった場合に限られる」と判示。その上で、「書き込みは社会通念上許される限度を超えた侮辱であることが一見して明白ではない」と指摘した。

町村ブログでも取り上げられていましたが、

http://matimura.cocolog-nifty.com/matimulog/2010/04/arret-589f.html

この判例の特徴、今後の参考になる点は、

以上のような法の定めの趣旨とするところは,発信者情報が,発信者のプライバシー,表現の自由,通信の秘密にかかわる情報であり,正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく,また,これがいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となることから,発信者情報の開示請求につき,侵害情報の流通による開示請求者の権利侵害が明白であることなどの厳格な要件を定めた上で(4条1項),開示請求を受けた開示関係役務提供者に対し,上記のような発信者の利益の保護のために,発信者からの意見聴取を義務付け(同条2項),開示関係役務提供者において,発信者の意見も踏まえてその利益が不当に侵害されることがないように十分に意を用い,当該開示請求が同条1項各号の要件を満たすか否かを判断させることとしたものである。そして,開示関係役務提供者がこうした法の定めに従い,発信者情報の開示につき慎重な判断をした結果開示請求に応じなかったため,当該開示請求者に損害が生じた場合に,不法行為に関する一般原則に従って開示関係役務提供者に損害賠償責任を負わせるのは適切ではないと考えられることから,同条4項は,その損害賠償責任を制限したのである。

と、立法趣旨(そもそも立法当時から言われていたことですが)を丁寧に再確認した上、「なにこのまともなスレ気違いはどうみてもA学長」という、東京高裁が侮辱であることは一見明白と判断した書き込みについて、

本件書き込みは,その文言からすると,本件スレッドにおける議論はまともなものであって,異常な行動をしているのはどのように判断しても被上告人であるとの意見ないし感想を,異常な行動をする者を「気違い」という表現を用いて表し,記述したものと解される。このような記述は,「気違い」といった侮辱的な表現を含むとはいえ,被上告人の人格的価値に関し,具体的事実を摘示してその社会的評価を低下させるものではなく,被上告人の名誉感情を侵害するにとどまるものであって,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて被上告人の人格的利益の侵害が認められ得るにすぎない。そして,本件書き込み中,被上告人を侮辱する文言は上記の「気違い」という表現の一語のみであり,特段の根拠を示すこともなく,本件書き込みをした者の意見ないし感想としてこれが述べられていることも考慮すれば,本件書き込みの文言それ自体から,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが一見明白であるということはできず,本件スレッドの他の書き込みの内容,本件書き込みがされた経緯等を考慮しなければ,被上告人の権利侵害の明白性の有無を判断することはできないものというべきである。そのような判断は,裁判外において本件発信者情報の開示請求を受けた上告人にとって,必ずしも容易なものではないといわなければならない。

という判断を示し、一見明白性を否定して重過失を否定した、その判断手法ではないかと思います。
故意、重過失が問題になる場合、特に重過失は、故意に匹敵する著しい注意義務違反、などと抽象的には言われても、何が重過失で、何がそこまでに達しない軽過失なのか、わかりにくいものですが、上記のような、見方によっては一見明白な侮辱と見られなくもない書き込みについて、最高裁がこのような判断を示したことは、この種の書き込みについて、プロバイダーのような立場で重過失が認められる範囲は極めて狭く、限定されているということを確認したものであり、そもそもの立法趣旨に沿った妥当な判断ということが言えるのではないかと思います。
この種の侮辱的な書き込みが問題になることは少なくなく、プロバイダー等に、侮辱であることが一見明白であるのに発信者情報開示に応じなかったなどとして損害賠償が請求されることもよくありますが、その種の紛争の先例として、かなり重要な意義があると言えるでしょう。

追記:

判例時報2082号59頁