http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2009/08/16/01.html
使用での起訴には時期を明示する必要がある。時期を推定できる毛髪鑑定の結果は週明けにも出るとみられており、19日の拘置期限を前に、東京地検は警視庁と拘置日数の延長幅などについて協議。所持に加え使用での起訴が可能かどうか詰めの捜査を行う。
覚せい剤使用罪に関する実務上の取り扱いとしては、尿中から覚せい剤成分が検出されたということを、いわばスタートとして、そこからさかのぼっての一定期間(起訴状では2週間程度の幅を持たせるのが通常)の間に、いずれかの場所で何らかの方法により、自己の意思により覚せい剤を自己の体内に入れて使用した、ということを、まず推定することになります。覚せい剤のような違法で、日常生活の中であちらこちらにあるようなものではない薬物は、自己の意思に基づかずに体内に入ることは通常ない、と考えるわけです。
そのような推定の上で、被疑者の供述等から、使用の時期や場所、方法を特定して行きますが、被疑者が、使用の事実自体を否認したり、覚せい剤が体内に入ったことは認めても、自己の意思に基づかないものであったと弁解することもあります。その場合は、自己の意思に基づかないまま覚せい剤が体内に入ったという「特段の事情」が認められるかどうか、捜査を尽くし、弁解が排斥できなければ起訴しませんが、そういうケースは多くはありません。
被疑者の供述等から使用の時期、場所、方法が特定できず、かつ、自己の意思に基づかずに覚せい剤が体内に入ったという特段の事情が認められなかった場合は、犯罪の日時、場所等を「できる限り」特定するものとして、時期については採尿日からさかのぼって2週間程度、場所についてはその間の被疑者の行動範囲(東京都内及びその周辺、といった記載になります)、使用方法も不特定のまま起訴する、ということが行なわれていて、これについては適法という判例もあり、実務上は適法であることが確立しています。その場合、公判で、その期間には複数回の覚せい剤使用がある可能性があり、どの使用を起訴したものかということが問題になることがありますが、実務上は、その間の「最終の1回使用」が起訴されているものとされ、有罪になった場合は、その期間の使用について既判力が及ぶ(その期間の使用について再び起訴はできない)ことになります。
こういった証拠構造にあるため、尿中以外の覚せい剤を根拠に覚せい剤使用が立件、起訴されるということは、通常行われていない、ということが言えるでしょう。
尿以外の鑑定結果、例えば、毛髪鑑定や使用器具等の付着物の鑑定で検出された覚せい剤成分を基に覚せい剤使用罪を立件、起訴する、ということになると、鑑定結果からは使用時期が、尿鑑定によるようには特定できず、被疑者の自白に大きく依存した立証になってしまい、元々、薬物使用者の自白という、信用性に疑問がつきまとう自白であるだけに、本質的に脆弱な証拠構造になってしまいます。それ故に、実務ではそういった立件、起訴はされていないと言ってよいと思います。
この辺は、テレビのインタビューでは、専門的過ぎ、また時間の制約もあってなかなか説明できませんが、かなり重要なところで、毛髪鑑定や付着物等の鑑定により覚せい剤性を認定し立件、起訴するということが困難な理由になります。