「国選弁護人が被告の利益代弁せず」検察側が異例の指摘

http://kyushu.yomiuri.co.jp/news/ne_06120104.htm

被告は8月22日夜、福岡県春日市の自宅で40歳代の同僚男性と酒を飲み口論となり、腹部を包丁(刃渡り約16センチ)で刺して7日間のけがを負わせたとして、殺人未遂罪で起訴された。罪状認否では殺意を否認していた。検察側は論告で包丁の形状や傷の深さなどから「殺意は明らか」と指摘。「犯行は危険極まりない」として懲役6年を求刑した。
弁護側は最終弁論で「被告は殺意を否認したが、弁護人としては、犯行態様などから未必の故意は否定できないと考える」と陳述。「確定的殺意はなかった」として短期の刑を求めた。
これに対し、検察側が論告を追加する異例の展開になった。「被告人質問の中で未必の故意も否認している」とし「弁護人は被告の利益を代弁していない。検察官は公益の代表者として問題点を指摘せざるを得ない」と述べた。
弁護側は「被告の弁明にただ従えばいい訳ではない。状況から判断すべきで、被告の不利益にはならない」と反論。被告は最終意見陳述で「(言いたいことは)ありません」と述べて結審した。

このような弁護人の行為が、直ちに弁護士倫理に違反する、とは断言できないと思いますが、この種の事件で被告人が殺意を否認することはよくあり、評価の問題として殺意を否定する立論も可能な場合が多いものです。被告人の主張に沿って弁論を行うことができない事件には見えず、なぜ、上記のように弁護人が敢えて主張したのか、よくわかりません。私なら、こういうことはしないでしょう。
裁判所としては、どういった結論になるとしても、殺意を否定する被告人の主張について十分検討を行ったことを判決の中で明らかにする、ということになる可能性が高いと思います。
当事者は、最終的に裁く立場ではないので、この証拠関係では裁判所はこういった判断はしないだろう、と思いつつも、無理は承知で主張、立証せざるを得ない場合もあります。特に、弁護士の場合は、そういった局面に立つ場合が少なくありません。そういった立場について思いを致すことなく、自分で勝手に裁いてしまって公益、被疑者、被告人、依頼者の利益を代弁できないような人は、当事者向きではないでしょう。こういった簡単なことがわからない人は、裁判官にもなれないと思います(もちろん、上記の記事に出てくる弁護士がそうだ、というわけではありません)。