ひき逃げ誤認逮捕、勾留10カ月 無実の訴え耳貸さず

http://www.asahi.com/national/update/0702/TKY200607020156.html

昔、若手検事のときに、どうしても自白しない被疑者がいて、他の証拠から十分有罪になると判断したので、起訴状を作成し、次席検事の決裁を受けに行ったところ、次席検事が、いろいろと質問し、記録にも目を通した上で、「本当に有罪になるか?普通の人間が、ここまで否認するというのは、何かあると思う。」と言われて、どうしても起訴決裁が受けられず、釈放し、結局、不起訴にしたことがありました。
そのときは、これだけ証拠があるのに、次席検事のせいで起訴できなかった、と頭にきていましたが、その後、経験が増えるにつれて、紙の上での供述だけでなく、実際に事情を聞いた際の心証、というものも、大切だ、ということが感じられるようになってきました。そういったことがわかってきて、矛盾する供述がいくつかあって供述の評価により処分が大きく異なってくるような事件では、ただ単に追及するだけではなく、特に疑問がある点はじっくりと相手の言い分を聞いてみたり、質問の中に、わざと「試す」質問を織り込んで、さりげなく聞いてみて反応を確認したり、といったことをすることで、自分なりの心証というものを持つように心がけるようになりました。その結果として、微妙な証拠関係でも思い切って起訴したり、逆に、起訴すれば有罪になりそうでも、どうも変だな、引っかかるな、と思い、不起訴にする、といったことをしたこともありました。
証拠がそろっているように見える事件でも、意外な落とし穴がある、という場合もあり、それだけ事件というのは難しいものですが、表面だけ見て右から左に処理するのではなく、特に、否認事件の場合、捜査官は、否認の内容にも十分耳を傾け、慎重に検討する、という習慣を持つべきでしょう。被疑者が否認する、ということに、反感を持つのではなく、むしろ、貴重なことを言っている、捜査すべきポイントを指摘してくれている、という感覚を持つべきだと思います。