地下鉄サリン事件

今夜のNHK「プロジェクトX」で、地下鉄サリン事件と、治療に当たった聖路加国際病院が紹介されていた。
聖路加国際病院が、礼拝堂まで病室に転用できる構造になっていて、地下鉄サリン事件の際に大いに役立ったことは知っていたが、そういった構造になったのが、東京大空襲の教訓に基づくものであることは、今夜の番組で初めて知った。私の自宅の近くに、東京大空襲の犠牲者を弔うお地蔵さんがあって、時々、散歩の途中で立ち寄ってお参りすることがあるが、東京大空襲の犠牲者が、50年後に地下鉄サリン事件の被害者を救ってくれたような気がしてならなかった。
私は、平成7年4月から東京地検で公安部に所属していたので、刑事部が担当していた地下鉄サリン事件の捜査には関わらなかったが、公安部は公安部で、なかなか難しい事件が多かった。私は、当時、取調官としてフル稼働していたので、連日、いろいろなオウム真理教関係の被疑者を取り調べていた。なぜか、東京タワーの近くにある愛宕警察署へ行くことが多かったが、警視庁公安部のベテランの警察官が、愛宕警察署に常駐状態になっていて(彼もいろいろなオウムの被疑者を取り調べて苦労していた)、愛宕警察署の生活安全課の入口の、「窪み」のような非常に狭いスペースに小机と椅子を置いてそこを拠点にしていて、よく、私の取調の前後に、そこでお互い小さくなって座って、「検事さん、これからどうなるんですかねー」とか、「割れない被疑者ばっかりで疲れるよねー」とか、「早く本庁に戻りたいですよ、ここにずっといると滅入りますよ」とか、缶コーヒーとかリポビタンDを飲みながら、愚痴ったり、こぼしあったりしていたものである。愛宕警察署に隣接する建物に、警視庁のハイテク犯罪対策総合センターが入っている関係で、今でも、時々その付近へ行くことがあるが、行くたびに、愛宕警察署に足繁く通っていたころのことを思い出す。
地下鉄サリン事件では、10名余りの方々が亡くなっているが、取調べた被疑者の中には、オウム真理教による犯行とは信じられない、と言っている者も少なくなかった。実態を認識してもらうために、新聞等で報道されている犠牲者のプロフィールやご遺族の悲しみなどについて、時間をかけて説明することが多かった。そういった地道な取調べを続ける中で、次第次第に真実が明らかになって行くことが多かったし、私だけでなく、他の検察官や警察官も、そういった地道な取調べを行い、その集積としていろいろなことが解明されたのではないかと思う。その意味では、亡くなられた方々が、我々が遂行していた捜査を見えない力で支えてくれたと言えるかも知れない。
当時の甲斐中東京地検次席検事(現最高裁判事)が、若手検事がオウムの被疑者の取調べで苦労していることを察してか、次席検事室に我々を集めて、ご自身の体験などを踏まえて、取調べを行う際の留意事項を話されたことがあったが、取調べの中で、本当の意味での深い部分の真相を解明するためには、取り調べる側も徹底的に勉強して相手の奥深くに入り込んで行くような取調べをしなければ駄目だということを、次席検事のお話や自ら行う取調べで痛感した。
今夜のプロジェクトXを見ていて、当時のいろいろなことが思い出された。