法廷で、何の意味もない、前の事件の際の被告人供述調書を請求する若手検事

国選で担当した大麻取締法違反事件でのこと。ほんの微量の大麻を所持していたという、単純な事件で、被告人も認めており、1回で最初から結審まで行く、その程度の事件。
それにもかかわらず、公判立会検事(おどおどした態度だが、虚勢をはろうとする面が見え隠れする、性格の悪そうな若手)は、今回の事件と何の関係もない(その事件当時の被告人の生活状況や家族関係も含まれているという程度)の、前の事件の際の検察官調書まで、乙号証として請求。私は、前の事件の際の公判調書(併せて請求されていた)については、前の事件の中身のことがほとんど出ていないため同意し、窃盗の中身について長々とした記載がある検察官調書は不同意としたところ、上記の検事は、刑事訴訟法322条(任意性があれば証拠能力がある旨定める)に基づいて、「わざわざ」請求し、裁判所も、必要性がないという弁護人の意見に理解するような姿勢は示しつつも、結局、採用。
大勢に影響するものではありませんが、こういった検察官の立証は、明らかに不適当です。被告人が既に有罪判決を受けている事件の際の供述調書を請求してはいけない、とは言いませんし、必要性があれば請求すべきでしょう。ただ、上記のような大麻の事件で、なぜ、犯罪の性質もまったく異なる窃盗の調書が必要なのか?それも、情状面についてはきちんと盛り込まれている公判調書に、弁護人が同意しているのに?このような立証は、裁判官に対して不当な偏見を生じさせる恐れがありますし、常識的に考えても不適当でしょう。おどおどした若手検事からは、何ら説明はありませんでした(多分、わけもわからず、やっているのでしょう)。公判の際、この検事は、被告人質問で、的外れで下手な質問をしており、検事としての資質がかなり低いと私は判断しました。
なぜ、このような資質の低い若手検事が、こういった余計な、しなくてもよいことをわざわざ行っているのか?ひとつの推測としては、検察庁内部で、いわゆる情状立証充実ということが督励されて、過去の事件の際の公判調書や供述調書等を請求して効果をあげることが組織的に推奨されているのではないかと思います。
確かに、そういった方法が効果的な場合もあり、私も、現職のときには、「もう暴力団をやめます」と公判で言っている被告人について、過去の事件でも同様のことを言っていたことを過去の公判調書で立証し、暴力団離脱が真意ではないことを強調したりしていました。
こういった、意味のある立証なら問題ないですが、漫然と、過去の、それも全然別種の事件の供述調書を請求するなど、有害無益であり、また、そういった証拠について謄本等を作成する検察事務官の労力も無駄でしょう。
検察庁内部で、いろいろな指導を行うのは結構ですが、資質や思考力が低い「マニュアル」人間は、自分の頭で考えることなく、上記の若手検事のような、愚かな振る舞いを公開の法廷で行ったりしますから、検察庁としても、十分注意が必要でしょう。
こういう不適当な検察官立証が今後もまん延するようであれば、必然的に、弁護士会内部でも問題にせざるをえないでしょうし、3者協議の場で、なぜ、こういった有害無益なことが無反省に行われるのか、きちんとした説明を検察庁にしてもらうことになることを、刑事弁護委員会委員としても強く警告しておきます。