趣旨めぐり全面対決 地元県議らへの現金配布 前法相夫妻、25日初公判・東京地裁

趣旨めぐり全面対決 地元県議らへの現金配布 前法相夫妻、25日初公判・東京地裁(時事通信) - Yahoo!ニュース

買収は現金を受け取った側も処罰対象だ。しかし検察当局は、首長や県議ら買収対象者100人の刑事処分を見送った。県議らが現金受領を認めて謝罪、辞職したことなどを踏まえた対応とされるが、国会議員の元公設秘書で300万円を受領したとされた男性も刑事責任を問われていない。

弁護側は「検察に有利な供述を引き出すために処分を見送った『違法な司法取引』が行われた可能性がある」との疑念を抱いている。過去の買収事件では5万円を受領し罰金の略式命令を受けた元町議もいる。アンバランスさを指摘する声は元検事からも上がっており、弁護側は裁判の打ち切りを求める方針だ。

「裁判の打ち切りを求める」という点は、いわゆる公訴権濫用論と言われるものだと思われます。検察官が有する公訴権にも限界があり、濫用に渡る場合は公訴棄却(免訴説もありますが)により裁判を打ち切るべき、という理論です。ただ、刑事判例上は、検察官に職務犯罪を構成する事情があるような場合でないと認めない、とされていて、本件でも認められるハードルはかなり高いでしょう。

憲法の平等原則違反(事件関係者の処分について)という観点でも、判例は、被告人自身に対する捜査が一般の場合に比べ不当に不利益に取り扱われたものでない限り違法性を認めないので、被告人らへの処分がそのようなものであるという認定は困難でしょうから厳しいでしょう。

なお、公訴権濫用の有無、平等原則違反は、理論的には実体審理に入る前の、審理の入口で問題になるものですが、実務上は、そういった主張が出ても、実体審理には入り、そういった点については判決で判断するという処理が通常です。

本件でのポイントは、河井克行被告人の総括主宰者性、河井案里被告人との共謀が認められるか、といったことと併せて

・ 多数、尋問される被買収側の証人が、検察ストーリーに沿った証言をするか

・沿わない証言をした場合、捜査段階で作成された証人の検察官調書が採用されるか

・採用に当たり問題となる「特信性(特に信用すべき状況)」が肯定されるか

といったところにあるでしょう。

令和元年7月の参議院選挙の前の、同年3月から5月にかけて、かなりの現金供与が行われていて、趣旨について、運動買収、投票買収ではない、政治活動に対する報酬、地盤培養行為や陣中見舞い、当選祝いであり違法性はない、といった主張を、被告人側は予定しているようであり、証人中、一定数は、そういった被告人側の主張に沿った公判証言をする可能性があります。

上記の「特信性」が判断されるに当たり、弁護人が主張を予定している(らしい)「違法な司法取引」といったことが問題とされることはあり得ることです。

公訴棄却という形で、大胆に裁判が終わる可能性はほぼゼロだと思いますが、個々の証人について、公判証言が検察官調書と食い違った場合に、特信性の判断の中で、取調べの違法性(人によっては脅迫とかそれに類する行為も含め)が問題になってくる可能性はあると思います。

一部証人は、広島にいたままビデオリンク方式で証言すると言われていて、そういった方式も含め、いろいろと注目される点がある公判になりそうです。