中国漁船衝突、不起訴の船長「起訴相当」議決

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110418-00000966-yom-soci

地検は再捜査するが、船長は事件後、中国に帰国している。
議決書では、中国漁船に追突された第11管区海上保安本部(那覇市)の巡視船「みずき」の右舷がへこんだことについて、「損傷は軽微とはいえず、人命を危険にさらす行為であったことは否定できない」と判断。船長は謝罪や被害弁償をしておらず、「『帰国したので起訴しない』との(地検の)裁定は納得できない」とした。

先ほど、マスコミ関係者から問い合わせがあり答えたのですが、今後については、以下のようになるでしょう。
再度の不起訴処分が出て(ほぼ間違いなくそうなるでしょう)、検察審査会が2度目の起訴相当議決を出し、強制起訴、ということになった場合、中国人船長が外国にいても、強制起訴しなくてよい、ということにはなりませんから、指定弁護士によって起訴手続が行われることになります。
起訴手続が行われると、裁判所は、2か月以内に、被告人に起訴状謄本を送達しなければなりません。この点は、刑事訴訟法で、

第271条
1 裁判所は、公訴の提起があつたときは、遅滞なく起訴状の謄本を被告人に送達しなければならない。
2 公訴の提起があつた日から2箇月以内に起訴状の謄本が送達されないときは、公訴の提起は、さかのぼつてその効力を失う。

とされ、2か月以内に起訴状謄本が送達できない時には、刑事訴訟法339条1項の

第271条第2項の規定により公訴の提起がその効力を失つたとき。

にあたり決定で公訴は棄却されることになります。刑事訴訟法の送達は、公示送達を除き民事訴訟法の規定が準用されることになっていて、民事訴訟法には外国での送達に関する規定もありますから、中国在住の中国人船長に起訴状謄本を送達することがおよそ不可能とまでは言えないかもしれませんが、まず無理でしょう(調べたところ、外国における送達にはその国の同意が必要、ということのようですが、本件で中国の同意が得られるとは到底思えません)。そうなると、上記の通り、公訴棄却となり、おそらく、指定弁護士の職務はそこで終了することになるはずです。
起訴状謄本が送達できたとしても(その可能性は限りなくゼロに近いですが)、中国人船長が自ら日本の裁判所にやってくることは、まず考えられず、中国政府が身柄を日本に引き渡すこともあり得ませんから、被告人不在では法廷が開けず、期日を指定することができないため、裁判所で「不動事件」化することになります。通常の事件であれば、そのような状態で長年月が経過し被告人に生存の見込みもなくなったような場合、検察官が公訴取消を行うことがあります。しかし、検察審査会法上、指定弁護士は、「その公訴の維持をするため、検察官の職務を行う。」とされ、公訴維持ではない公訴取消について、「検察官の職務を行う」ことができるかどうか、疑義はあるでしょう。公訴取消ができない、ということになれば、永遠に事件は係属し続けるということになるのでしょうか。
こういった、様々な問題があるため、今後の成り行きを注視する必要があります。