保護法違反裁判:警察庁公文書「秘密非開示では立証困難」

http://mainichi.jp/select/news/20140127k0000m040114000c.html

森雅子担当相は国会で、特定秘密を漏らしたり、入手しようと試みたりした人物が起訴された場合、法廷で秘密の内容を明かさず、秘密に指定された手続きやその種類、指定の理由などから立証(外部立証)できると強調してきた。
しかし、毎日新聞の情報公開請求に対し警察庁が開示した文書によると、現行法の前身の秘密保全法案が検討されていた2011年10月18日、法務省刑事局が「弁護人の争い方や裁判所の考え方次第では、外形立証では対応しきれず、特別秘密(現特定秘密)の内容が法廷で明らかになる可能性がある」などとする意見書を、法案を作成した内閣情報調査室(内調)に提出していた。
また、警察庁刑事企画課も翌月11日、「情報や資料自体の内容が争われるケースでは、外形立証では十分な立証は困難と考えられる」との見解を示した。例として、被告が漏らした秘密情報について、ネット上に流れていたファイルを入手したものだと主張した場合、「ファイルが(被告が業務で扱う)特別秘密であったことを積極的に立証しなければ、漏えいを立証することは困難」などとしている。
同庁はこれらを踏まえ、特別秘密が公判で明らかにならないような「刑事手続き上の保護措置」を法案に盛り込むよう要求。しかし、内調は将来的な課題ではあるものの、必ずしも本法律施行までに対応する必要はないと同庁に回答。事実上、結論を先送りしたまま法は成立した。

昨年12月に、参議院議員会館内で講演した際、この点についても触れていて、

落合弁護士による「特定秘密保護法案の刑事手続上の論点」
http://bylines.news.yahoo.co.jp/egawashoko/20131202-00030296/

特定秘密に関する刑事公判はどうなるか

刑事公判を行ううえで、特定秘密をどのように取り扱うかは大きな問題となるだろう。
起訴状では、公訴事実が特定されなければならない。最近、性犯罪の被害者の名前を匿名にすることが問題になっているが、これも特定の問題。何をもって特定されるかというのは諸説あるようだが、他の犯罪と識別される程度に特定されていなければいけないし、それで足りるというのが今の実務のスタンダードな考え方。特定秘密が問題となった場合、犯罪構成要件上の行為対象となった特定秘密であることが識別できれば、その性質上、秘密の内容事態を記載する必要はない、という取り扱いがされる可能性は高いだろう。検察官は、それが「特定秘密」であることを外形として立証していく。防衛庁のだいたいこれくらいのところに来ている特定秘密、という程度で、中身は秘匿しつつ立証していくということにならざるをえないだろう。そういう立証ができなければができなければ起訴はできない。
ただ、このような取り扱い、立証をした場合、問題が出てくる。
・被告人が否認している場合や、既遂犯以外で秘密漏えいの結果が生じていない場合に、特定秘密の内容が明らかにされないため、被告人の防御権行使に支障を来す
故意犯として起訴された場合に、「特定秘密」についての認識・認容が問題にされているにもかかわらず、具体的に明らかでないため、外形立証の限度でしか問題にできず、刑事公判が形骸化する
といった問題が生じる可能性はある。
法案10条では、裁判所や捜査に従事する人が他に見せないという前提で提供を認めているが、被告人・弁護人が内容を知ることは、そもそも想定されていない。

といった話をしました。
上記のような外形立証が可能、との見込みの下に起訴しても、その後の公判の推移の中で、裁判所の訴訟指揮により外形立証では済まなくなる、ということはあり得ることで、警察庁が要求していたような、「特定秘密が公判で明らかにならないような刑事手続き上の保護措置」を法に盛り込んでおく、というのは1つの方法にはなるでしょう。ただ、保護措置が講じられているから立証も不十分でよい、とは裁判所は見てくれない可能性が高く、そのような事態に立ち至れば、保護措置があっても無罪覚悟で突っ走るか、あきらめて公訴を取り消す(検察官の権限で)かのどちらか、ということになることも十分あり得ます。厳罰化へ思い切り舵を切りながら、肝心の刑事公判対応は尻抜け状態という、お寒い状況が情報公開により裏付けられたわけで、特定秘密保護法の持ついびつさが露呈したと言っても過言ではないでしょう。