http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151116/k10010308251000.html
名古屋地方裁判所岡崎支部で裁判が始まりましたが、被告は自分の意思を伝える力がない心神喪失とされて、平成9年に審理が停止しました。その17年後の去年3月に裁判が再開されましたが、名古屋地裁岡崎支部が「被告に回復の見込みがなく審理が行えない場合、裁判を打ち切るのが裁判所の責務だ」として裁判を打ち切る異例の判決を言い渡したため、検察が控訴していました。
16日の2審の判決で、名古屋高等裁判所の石山容示裁判長は「検察が起訴を取り消さないのに裁判所が一方的に打ち切ることは基本的に認められていない」と指摘しました。
刑事訴訟法上、314条1項で、
被告人が心神喪失の状態に在るときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、その状態の続いている間公判手続を停止しなければならない。但し、無罪、免訴、刑の免除又は公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合には、被告人の出頭を待たないで、直ちにその裁判をすることができる。
とされていますが、「無罪、免訴、刑の免除又は公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合」以外に、被告人の心神喪失状態が回復する見込みがないから手続を打ち切る、という明文規定はありません。
ただ、「審理の著しい遅延の結果、迅速な裁判の保障条項によつて憲法がまもろうとしている被告人の諸利益が著しく害せられると認められる異常な事態が生ずるに至った場合」に該当するとして免訴により手続を打ち切ったケースがあり(高田事件最高裁判所判決)
従来の枠組みで考えると、本件がそういった「異常な事態」に該当すると言えるかどうかが争点だったのではないかと推測されます。高裁は、そこまでには至っていないと見たようですが、今後、上告される見込みとのことで、最高裁の判断が注目されると思いますし、こういったケースについて、何らかの新たな判断が出る可能性もあって、その意味でも注目されるものがあると思います。
被害者、遺族、事件関係者の感情、思いへの配慮も必要ですが、被告人の心神喪失状態が回復する見込みがないにもかかわらず検察官が公訴取消をせず被告人が死亡しない限り公判手続が延々と続くというのも合理的とは思えず(実務的には「不動事件」として記録がロッカーの中にある、という状態が続くことになります)、立法により何らかの手当てをすることも検討すべきかもしれません。