アトリウム:東証1部不動産会社社長、自社から20億円借金

http://mainichi.jp/select/biz/news/20090103ddm041040008000c.html

ア社によると、高橋社長は事前に定めた価格(権利行使価格)で自社株を取得できるストックオプションの権利を04年1、12月に会社から付与され、06年4月と07年3月に権利行使し計108万株を取得した。株価は当時3310〜3933円で、売却すれば権利行使価格(1株約200円、総額約2億円)との差額約39億円の利益を手にできた計算になる。しかし、うち105万株は売却せず、含み益に対する所得税と住民税計約20億4000万円を課税された。

担保株の価格は、借入時は1株1096〜1662円だったが、08年8月29日には582円に下落した。港区にある高橋社長の自宅を追加で担保設定したが、監査法人の指摘に従って回収不能に備え、08年8月中間期決算で貸し倒れ引当金11億円を計上、半期報告書に記載した。決算後、さらに高橋社長が将来受領する退職慰労金にも担保設定した。

ストックオプションというものは、悲喜こもごもで、多額の利益を取得する人もいればもらい損ねる人もいますが、こういった「もらい損ない」というのは珍しいですね。2004年に付与されたものを、2006年と2007年に一気に行使したようですが、すぐには売却しない(できない)ものを、なぜここまで大量に権利行使したのか、理解に苦しみます。権利行使しても、売却しなければ単なる名目上のお金持ちに過ぎず、税制適格からはずれてしまうと売却前に課税されてしまうので、税金を払うために権利行使したようなことになってしまいます。特に、ここまで課税額が巨額になると、その後の株価下落ということが、もろにリスクとして顕在化することになり、何のためのストックオプションであったか、ということになってしまうでしょう。
経営陣に連なっていたりすると、ストックオプションで権利行使が可能になってもすぐには売却できない、ということが起きがちですが、この記事にあるような悲惨なことにもなる、ということは、よく覚えておいたほうが良さそうです。
疑問が生じるのは、記事では借入時の株価が1株1096〜1662円とあり、仮に最高値の1662円で計算しても、105万株では時価17億4510万円にしかならないのに、会社が社長に合計19億8700万円を貸し付けていることです。これでは完全に担保割れで、その穴埋めが社長の自宅への担保設定であった可能性もありますが、通常、株式を担保に貸付を行う場合、掛け目を掛け、東証1部上場企業の株式であっても時価の100パーセントで評価はしないものですから、いかにも大甘の担保設定であった可能性が高いでしょう。しかも、その後に退職慰労金への担保設定を行ったようですが、もう他に担保設定するものがなかったのかもしれないものの、将来、もらえるかどうかが不確実な退職慰労金(こういう社長に出るのか、という根本的な疑問が生じます)が、果たして担保足り得るのか、ということは言えそうです。
会社からこれほど多額の借金をしている人物がその会社の社長を務めているということになると、多額の借金を返済するためにどのような途方もないことをやるかわからず、私がこの会社の利害関係者であれば非常に不安になると思います。東証1部上場、というものも落ちたものです。

追記(1月6日):

担保評価については、

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20090106#1231207663

でコメントしたような評価をしたようですが、「大甘」であることは変わらないでしょう。下手な小細工をした、と、むしろ厳しく評価されてしまう可能性もあるように思われます。