最前線のリーダーシップ

最前線のリーダーシップ

最前線のリーダーシップ

私の場合、法曹生活で最初に足を踏み入れたのが検察庁であり、在籍中、次第にリーダーシップを求められる場面が増えたということもあって、リーダーリップ論には興味があり、時々、その関係の本を買って読むことがありました。しがない弁護士になり、もう今更リーダーシップでもないだろう、と思いきや、それなりに経験年数を経た弁護士、ということになると、事件の渦中や複数の弁護士の中で、望まないままリーダシップやそれに類するものを発揮することを求められることもないわけではなく、結局、この種の勉強は今でも必要になっています。
この本を少し読んでみて感じたのは、具体例が豊富で、ノウハウが多く盛り込まれた、極めて実戦的な、使えそうな本である、ということでした。著者がハーバードのケネディ・スクールで教えていて、その中から本書が生み出されてきた、ということも、そのような内容になっている理由ではないか、と思います。リーダーシップを求められる場面で、いちいち、本に書いてあることを思い出しながら動くわけには行きませんが、この種の本を読みつつ、一種のシュミレーションによるイメージトレーニングのようなことをやっておくことで、将来、似たような場面に遭遇した際に、より適切な対応、身の処し方が可能になる、という効果は期待できそうです。
日本の伝統的なリーダーシップ論は、人格識見の陶冶、それを極めることで自ずと人はついてくるものである、という色彩が濃いように思います。その原型としては、旧陸軍大学校で使用されていた

統帥綱領・統帥参考

統帥綱領・統帥参考

などがあるように感じます。従来、優れたリーダーシップを発揮した指導者が取り上げられる際、日本では、上記のような観点に重きが置かれる傾向が強いというのが私の受けている印象です。
人格識見が劣った人間について行きたい、という人はいませんから、上記のような点も確かに重要ではありますが、それを高めることには自ずと限界があり(いくら頑張っても、普通の人間が、例えば大石内蔵助のようにはなかなかなれないでしょう)、現実の人間社会におけるリーダーシップの在り方、発揮方法といったことについては、一種のスキルとして捉えて行くことが、やはり不可欠ではないか、と思います。その意味で、この「最前線のリーダーシップ」は、日本におけるリーダーシップ論で欠けていたところ、弱かったところを埋める、重要な意味を持つ一冊ではないか、というのが、少しではありますが、読んでみた私の感想です。