喜連川社会復帰促進センター見学記

昨日、栃木県さくら市にある、上記のセンターを、弁護士会の見学に同行して見学してきました。季刊刑事弁護の編集部員も同行していて、同誌に掲載する見学記を書くよう依頼されたので、近日中に書くことになりそうですが、先に、本ブログで、見学記をとりあえずアップしておきます。
同センター(以下、「喜連川センター」と略称)については、サイトがあり、そこでも紹介されています。

http://www.kitsuregawa-center.go.jp/
http://www.srs-kitsuregawa.co.jp/

この種の社会復帰促進センターについては、現在までに、喜連川のほか、

美祢(みね・山口県
http://www.secom.co.jp/srs-mine/
島根あさひ
http://www.shimane-asahi.co.jp/
播磨(兵庫県
http://www.harima-rpc.go.jp/

が計画され、建設中の島根あさひ以外は、既に開設されています。喜連川センターは、今年の10月13日に開庁し、同月16日から受刑者の収容を開始した、とのことで、正に、できたてほやほやの刑務所でした。
概要は、上記のサイトのほか、

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%96%9C%E9%80%A3%E5%B7%9D%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E5%BE%A9%E5%B8%B0%E4%BF%83%E9%80%B2%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC

が参考になりますが、特徴は、

1 PFIを利用し、民間の資金や人員を活用した刑務所
2 今後の日本における刑務所が目指すべき水準を具体化した、最新の設備を採用
3 受刑者の高齢化に対応し、グループセッション手法を導入するなど、矯正処遇にも工夫が見られる

といったところではないかと思います。
1については、上記のウィキペディアの記事もありますが、昨日の喜連川センター側の説明の中でも「誤解されがちであるが」として説明されていたのは、米国にあるような、「民営化」された刑務所ではなく、あくまでサービスの提供主体は国であり、「刑務所」である、ということでした。国が主体となることで、安定性、継続性、効率性が確保され、そこに民間の資金や人員が投入されることにより、低廉かつ良質な公共サービスを提供しようとするものである、という説明がなされていました。確かに、外国はともかく日本において、刑務所のような公権力の行使そのものである施設を完全に民営化してしまうことには無理があり、この方式は、現実的かつ効果を期待できる方法ではないか、という印象を受けました。構造改革特区としての指定を受けることができたことで、権力性が比較的弱い業務(施設の警備、収容監視、職業訓練、信書の検査の補助、領置物の保管、健康診断など)について、民間人も加わって行うことが可能になった、とのことで、この点については、申請主体である地方自治体の協力も不可欠であった、ということでした。
2については、センター内を案内してもらいながら見学しましたが、私自身の「刑務所」のイメージに大きな変革をもたらすほどの、最新式の設備が導入されていて、新鮮な驚きがありました。例えば、調理システムについて、TT(時間・温度)管理の徹底による衛生保持、クックチル方式等の効率的な調理手法など、最新式のシステムが導入されていたり、受刑者との面会について、IDとパスワードの発行を受けておけばインターネット上で予約可能になっていたり、従来、何かと問題が生じてきた悪名高い保護房についても、外部に接した大きなガラス窓(開かない状態ですが)を設置して閉塞感を緩和し、房のすぐ外でシャワーを使えるようにして、房内で受刑者が糞便まみれになったような場合でもすぐに洗い流せるようにするなど、随所でかなりの工夫があることがわかりました。
3についても、高齢者や障害者向けに、運動場まで出なくても一定の運動ができるように、歩行路がついた小庭のようなスペースが設けられ、また、グループセッション手法を導入し、受刑者を罪名や年齢等にとらわれず15名程度にグループ分けした上で、職員指導の下、与えられたテーマについて討議させることでコミュニケーション能力の向上を図り、自己の問題性を自覚させつつ価値観の変革により実社会に適応できるように訓練する、といったことも行われるということで、効果が期待できるのではないか、と思わせるものがありました。
昨日朝の時点で収容している受刑者は339名であり、徐々に収容者を増やし(定員は2000名)、来年夏ころには定員を充足する見込みである、とのことでした。
この種の手法で刑務所を新設することは、過剰収容問題を解消するための、一つの有効な対策であることは間違いないと思いますが、施設を増やし収容人員を増加させることだけで、この問題が解決されるものではないことも、また事実であり、施設内処遇に偏しない、処遇の多様化、社会内処遇の充実、強化といったことも、併せて積極的に進められるべきである、と感じつつ、喜連川センターを後にしました。
同センター関係者の方々には、開庁直後で多忙なところを、丁寧に説明、案内していただき、大変感謝しております。ありがとうございました。