放火事件における燃焼実験(後)

それは放火未遂事件でした。家屋の外に、プロパンガスのボンベが設置してあって、被疑者が、ガスボンベから伸びたゴムホースに木材を何本か立てかけるような状態にして、それに火をつけゴムホースからプロパンガスを噴出させ、家屋を全焼させようとした、といった事件だったと記憶しています。
これで本当に火が付くのか?という疑問が生じ、警察署の裏庭のようなところで、燃焼実験を行うことになりました。実際のプロパンガスボンベは危険で使えないということで、空のボンベなどで現場を再現し、木材を何本か持ってきて現場の状況を再現し、木材に火を付けてみました。
ところが、何度か試みても、なかなかホースにまでは火が付きませんでした。
一緒に立ち会っていた所轄警察署の刑事課長(だったと思います)が、えらく焦ってしまい、私に、「検事さん、火は付きますよ。」などと言いながら、被疑者が自白している以上に木材を持ってきたり新聞紙に火を付けたりして、燃やそう、燃やそうとして、多少、ホースにも火が付くような感じになりましたが、何とも迫力がなく寂しい状況でした。
私も、「これは徹底的に再現しなければ。」という気持ちになり、その後、警察に対し、「プロパンガスが入ったボンベを、河川敷に持って行って設置し、現場と同じ状況を徹底的に再現して、本当にホースからガスが噴出し火が付くかどうかやってみてほしい。」と強く要請(ほとんど強要?)したところ、その後、警察から、「検事さんが言うとおりに燃焼実験をやりたいと消防署に相談したら、そんな危険なことをしては駄目だと怒られた。」などと、泣き言を言ってきました。私も、このままでは起訴できない、という意識が強烈だったため、「これで起訴して無罪になっても消防署は責任をとってくれないだろう。何とか実施してほしい。」などと強硬に言ったところ、警察から次席検事に「泣き」が入ったようで、次席検事に呼ばれ、「落合君、消防署が、危険だから絶対に駄目だと言っているらしいぞ。消防署がそこまで言うということは、それだけ危険極まりない、ということだから、燃焼実験をしなくても有罪になるよ。」と諭され、渋々、あきらめました。
その事件は、特に争われることもなく、現住建造物等放火未遂罪が認定され、被告人には実刑判決が宣告されました。
若くて元気な頃が懐かしいですね。