「ノーティス・アンド・テイクダウン手続と責任回避」に関連して

小倉先生のブログ

http://blog.goo.ne.jp/hwj-ogura/e/4d1554b67e36407599ca2a1c2d98b49c

に関連して、若干コメントしておきます。
その前提として、私の考え方については、

インターネットにおける匿名性について
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20040814
はてな」問題について(いろいろなご意見に関する、ちょっとした感想)
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20041107#1099824096
「発信者」性について(小倉弁護士の見解に関連して)
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20041105#1099657378

を参照していただければ、と思います。なお、本日のブログで取り上げた

http://internet.watch.impress.co.jp/cda/event/2004/11/08/5301.html

の中の、上野先生の解説も参考になります。
私は、ファイルローグ事件で問題となった日本MMOの立場と、「はてな」の立場(特にブログに関して)は、明白に一線を引くことができるし、また、引く必要があると考えています。日本MMOは、東京地方裁判所により発信者と認定されており、もちろん、これについてはいろいろな議論があると思いますが、やはり、発信者と認定されるだけの特殊な事情があったと言うべきでしょう。そのことは、既に指摘したとおりです。
小倉先生が、日本MMOについて、「発信者ではない」と主張されるのは、その立場から当然のことであると思いますし、私も、ファイルローグ事件の今後の行方には大いに注目していますが、「日本MMOは発信者である」という認定の下に、裁判所が、小倉先生の言われる

しかし、上記1も2も、基本的にファイルローグが講じていた「違法行為防止措置」と同趣旨の対策であり、東京地方裁判所からは実効的ではないと一蹴されてしまったものに他なりません。
特に2については、権利を侵害された権利者から十分な内容の申告がなされなければ対応のしようがないわけですが、日本MMOが用意していた「ノーティス・アンド・テイクダウン手続」は、JASRACや各レコード会社から一度も活用されることはありませんでした。その結果、日本MMOが用意していた「ノーティス・アンド・テイクダウン手続」は実効性がないとして、結果回避義務違反が認められてしまいました。

と判断されたものを、「はてな」についても同様に考えるというのは、「はてな」も発信者である、あるいは、発信者である可能性が高い、という前提に立って、はじめて妥当するものであり、そういった前提に立たなければ、別の話になると思うのです(どうも、うまく文章にしにくいのですが、趣旨はおわかりいただけるのではないかと思います)。
私は、今、こうしてブログを作成していますが、情報を発信しているのは誰か、というと、正に「私」です。「はてな」も発信者である、ということが肯定されるのであれば、例えば、無料ホームページサービスの管理者なども、皆、「発信者」扱いされるでしょう。しかし、そういった考え方が妥当とは到底思えませんし、どこかで明確な線引きをして、発信者とそうでもないものを峻別する必要があると思います。従来の日本の裁判例を見ていても、確かに曖昧な部分はあるものの、「はてな」のような立場の者にまで、発信者性が肯定されるほど無茶な判断までは示されていないと、私は考えています。別に「楽観」しているわけではなく、そういった整理、切り分けといったものが不可能なほど、日本の裁判例が混乱しているわけではないと思うのです。
逆に、ファイルローグ事件などで示された裁判所の判断を、過剰に拡大解釈し、「プロバイダ等としては、裁判で負けそうな要素は極力なくそう。」という方向で過剰に振れてしまうと、必要性に疑問がある個人情報を過度に利用者に求める、といった現象が、インターネットの世界のあちらこちらで起こりかねず、非常に問題だと思います。
更に言えば、これは個々のプロバイダ等のポリシーにも関わることですが、確立した判例であればいざ知らず、確立もしていない裁判例におびえ、利用者に負担をかけることで自らのリスクを回避しようという姿勢は(今回の「はてな」がそうだと言うわけではありませんが)、利用者軽視という批判を免れがたく、我が国におけるインターネットの発展という観点からも、得策とは言い難いのではないかと思います。
ここでアメリカの刑事判例を持ち出すのは唐突かもしれませんが、我が国でも著名で、アメリカ刑事裁判史に燦然と輝く著名な判例は、最高裁判所まで徹底的に争った被告人や弁護人がいたからこそ生まれたものです。我々が、インターネットに関する裁判例を見るときにも、そういったチャレンジ精神は必要だと思いますし、多くの利用者に支持されているサービスの提供者には、利用者のためにも、必要なリスクは取りつつ、安易な妥協はしない、という姿勢も必要ではないかと思うのです。
私の考え方としては、「はてな」は発信者とは言えないし、実態としても発信者にはならないという状態をきちんと確保した上で、既に述べたように、
1 利用規約の整備及び利用開始時の利用者による承認
 利用者に対する禁止事項を、利用規約上で網羅的に明示し、利用規約違反に対しては、「はてな」が利用停止やコンテンツの削除措置を講じる権限を持つことを明確にするとともに、利用者をして利用規約遵守を約束させる
2 権利侵害申告に対する対応態勢の整備
 権利侵害申告があった場合に、申告内容が不十分であれば補充させるとともに、内容的に十分な申告については、速やかに対応する態勢を構築し、速やかに対応する(利用規約に照らし、必要に応じてコンテンツ削除や利用停止等の措置も講じる)
3 サイト内に、利用規約違反、権利侵害行為といったことを行わないための参考ページを作り、利用者の便宜を図る
といった措置を的確に講じ、裁判所がよく言う「特段の事情」(平たく言えば、違法状態の横行といった事態)が生じないように十分注意して臨めば、「発信者」と認定されるような事態は十分回避できると思います。そういう状態に、プロバイダ責任制限法も適用されて、不測の損害が生じるといった事態は十分回避できるはずです。
以上述べたこととは別に、違法行為の抑制のため、利用者から氏名、住所等の提供を求める、ということは、方法としてはあり得ます。ただ、そういった方法をとるのであれば、利用者に対し、説明責任を尽くすとともに、プライバシーポリシーや個人情報保護体制を整備して万全にする必要があることは言うまでもありません。
私は、匿名性絶対論者ではありませんが、匿名性を制約するのであれば、きちんとした根拠が必要であり、また、制約される人々に対して、十分なわかりやすい説明が行われるべきであると考えています。
従来の「はてな」の措置とか説明を見ていると、残念ながら、そういった点が極めて不十分であると言わざるを得ず、だからこそ、多くの人が反対意見を述べていると思います。「はてな」としても、様々な意見に対し、謙虚に耳を傾けるべきでしょう。