「ジオシティーズの規約」に関連して

小倉先生の

http://blog.goo.ne.jp/hwj-ogura/e/fa398592b99d57a94b943e69145eaf5c

に関連して、若干のコメントを。
私の

はてなへの住所登録に関するパブリックコメントの募集について」
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20041112

をごく普通に読んでいただければわかるとおり、私は、ジオシティーズの規約の中の、「8. 話し合いの手続きについて」について、参考例として挙げているに過ぎず、ジオシティーズの規約全体を「推奨」しているわけではありません。推奨しているわけではないものを、正当化したり、擁護する理由も必要もないと思っています。
ただ、小倉先生のご指摘に関連して言えば、インターネット上でサービスを提供している運営者の利用規約とかガイドラインといったものは、どうしても、抽象化する傾向があり、これは、避けられないという傾向はあると思います。規範というものに内在する制約、と言っても良いかも知れません。
法律でも、例えば、著作権法で、

第119条 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。
1.著作者人格権著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害した者(第30条第1項(第102条第1項において準用する場合を含む。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者又は第113条第3項の規定により著作者人格権著作権、実演家人格権若しくは著作隣接権(同条第4項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第120条の2第3号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)

という罰則規定がありますが、列挙された権利を「侵害した者」という、非常に抽象的な定めしかされておらず、何をもって「侵害」と言うのか、この条文を見ているだけでは容易にはわかりません。こういった規定に対しては、当然、いろいろな批判が可能ですが、ただ、何をもって「侵害」かを具体的に列挙することが難しいのもまた事実であり、そこが、幅広い事象を対象にする規範の難しいところではないかと思います。
こういった抽象的な規定については、別の規範でより明確化したり(法律の場合は、省令などでより明確化したりといったことが行われます)、運用面で工夫する、といったことで、妥当な結論を得られるように努力するしかないでしょう。上記のような著作権法の罰則規定も、それなりに謙抑的な運用もされ、それほど問題頻発といったことにはなっていないと私は認識しています。
インターネット上でサービスを提供している運営者の利用規約等についても、どこも似たり寄ったりと言ってよいと思いますが、規定の抽象性については限界もあると思うので、それぞれの運営者の内部で、できるだけ具体的な判断基準を持ったり、そういった判断基準の具体的事例へのあてはめをできるだけ的確に行ったり、といった努力を常に行い怠るべきではないのではないか、というのが私の意見です。上記のような判断基準を作成したり、あてはめを行ったりする際には、運営者の過去の処理例とか、過去の裁判例といったものが参考になるでしょう。検討を行った結果が、利用規約上の、一見、抽象的な文言に該当するというものになったとしても、できる限りの検討を行うことが重要であり、最初から、「これは公序良俗に反するから」「不快だから」といった一刀両断的、直感的な判断に走っていては、多数の利用者、苦情等を寄せる多数の第三者に対して、不公平とか不平等ができるだけない対応をするのが困難になるのではないかと思います。
確かに、利用規約等の作成にあたっては、運営者側に有利にしておきたいという思惑が働いているでしょう。しかし、一旦、利用規約等として世に出しているものについて、運営者の絶対性、無謬性を強調しすぎることは、利用者を軽視することになりますし、利用規約等の解釈としても、「行き過ぎ」という評価を受ける恐れが十分あると思います。
小倉先生は、「私は、ジオシティーズに登録していないのでどのような運用がなされているのかはわかりませんが」と述べられていますが、上記のような意味で、運用面も含めて見て行かないと、利用規約等だけのレベルで仮定の議論をしても、あまり有益とは言えないのではないかと思いますし、私のこれまでの意見も、そういった趣旨で述べているつもりです。例えば、ライブドアブログの件についても、「利用規約がこうなっているが、けしからん!」などとは言っておらず、あくまで削除等の運用に重点を置きつつ論じている背景には、こういった考え方があるわけです。
次に、上記でも触れた、ジオシティーズの「話し合いの手続き」について。私はジオシティーズの運営者ではなく、規約等を作ったわけでもなく、以下に述べることはあくまでも私個人の理解や推測に基づくものであることをあらかじめお断りしておきます。
小倉先生は、

この話し合い手続きの問題点は、
・ 結局話し合いが付かない場合はどうするのかということが必ずしも明確ではないこと
及び
・ 「苦情申告者がYahoo! JAPANからの連絡先通知を受領後14日を経過してもなお、話し合いを開始しない」からといって、同社が「該当ページの公開停止を解除しページを再開」した場合、プロバイダ責任制限法3条1項の免責が受けられない可能性があること
です。
 後者の点について言えば、Yahoo! JAPANは当該権利侵害情報が不特定人に対し送信されている事実を既に知っている以上、その情報が他人の権利を侵害するものであるという認識をしていたかどうかまたは認識することが可能であったかどうかによって不法行為の成否が定まることになります。苦情申立者が話し合いを開始しなかったからといって、当該違法行為に関する諸権利を放棄したことにはなりません。ファイルローグ事件東京地裁判決では被害者はノーティスアンドテイクダウンを活用する必要すらないとされておりますから、被害申告した後に「Yahoo! JAPANが当事者間の話し合いによる解決が適切であると判断した」からといって被害者がYahoo!JAPANのこの判断に従う必要はなおさらないからです。

と指摘されていますが、そもそも、この「話し合い手続き」があるからといって、運営者がプロバイダ責任制限法上、何らかの「特典」的な恩典とか免責が得られるはずがありません。一私企業の利用規約とかガイドラインによって、そのような効果が生じるはずもないことは、当然でしょう。
私の理解では(ジオシティーズの運営者の理解は知りませんが)、この話し合いの手続きは、運営者がプロバイダ責任制限法等の法令により一定の責任を負う場合があることを当然の前提として、当事者間の話し合いにより紛争解決を目指す、一種の付加サービスであると思います。話し合いの手続きに入るのが適切かどうかは、正にケースバイケースであると思われ(話し合いの余地がないものもあるでしょうし、話し合い自体が新たな紛争を生みかねない場合もあるでしょう)、当事者と運営者のいずれかが判断するしかない以上、その点について運営者が判断するという定めは、特段問題があるとは思われません。
話し合いの手続きに入るかどうかとは別に、送信停止措置を講じるべきかどうかの判断は、プロバイダ責任制限法等に照らして行われるはずです。ただ、そこでの判断と同時に、あるいはその後において、話し合いの手続で定められた手順に則った措置が講じられることにはなるでしょう。公開したままにすれば運営者自体が責任を問われると判断される情報について、公開したまま放置したり、一旦公開を停止した後、是正されないまま再開するといった措置が講じられるとは考えにくいと思いますし、そういうことが起きたり、そういう事態を正当化するような姿勢を、話し合いの手続きの規定から読み取ることは困難でしょう。
話し合いに入った場合、
1 問題が指摘されている情報が公開されたまま話し合われる
2 そういった情報が公開停止された上で話し合われる
という、2つの場合が考えられます。
1の場合には、話し合いがつかないまま推移すれば、情報が公開されたままの状態が続くことになるでしょう(別の新たな理由が生じて公開停止になることはあり得ますが)。
2の場合、確かに、小倉先生が上記の第1点で指摘されているような批判があり得るかもしれません。ただ、ここでも、最初に述べた「運用論」が出てきますが、公開停止措置の運用をどういったレベルで行うか、にもよると思われ、プロバイダ責任制限法等に照らして公開停止措置を講じないと運営者が責任を問われる、という高度の危険性があって初めて公開停止にする、といった運用が行われれば、「話し合いがつかないで、本来、公開停止されるべきでないものが公開停止され続ける」といった事態は生じにくいのではないかと思います。あくまで私見ですが。
はてな」が検討している方法の中には、

住所登録ユーザーとそうでないユーザーとで、情報削除の申立を受けた際の対応方針を切り分けます
住所登録を頂いていないユーザー様の日記内容に削除申立があった場合には、基本的にはてなで違法行為の有無を確認する前に、まずプライベートモードに固定させていただく、などです

とありますが、これでは、「削除申立」があった途端に、「プライベートモードに固定」されてしまうことになり、結果的に問題ないと判断されても、それまでの間、公開停止になってしまいます。
こういうことを行った場合、何が起きるかというと、気に入らないブログがあると、根拠らしきものを付けて「削除申立」を行い、公開停止に追い込む、ということでしょう。「はてな」にしてみれば、それが嫌なら住所登録ユーザーになれ、ということなのかもしれませんが、住所や名前を登録しているかどうかで(それも、既に指摘しているような極めて中途半端な登録で)、対応にそこまで差異を設ける合理性があるのかどうか、疑問を感じます。
住所登録ユーザーではない者に対する、登録への強烈な誘導、脅しなのかもしれませんが、そうであれば、嫌らしいことをするな、と思わざるを得ません。
現段階では、あくまでプランですが、プランの段階で、既に「はてな」側の思惑が透けて見えるような気がします。