「ブログ実名制」へ向かう中国政府

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0610/23/news029.html

中国インターネット協会(ISC)が同国政府に対し、ブロガーがブログを登録する際に実名を使うことを義務化するよう提案した。自由なWebコンテンツを規制しようとする最新の試みだ。

「自由」を否定しようとする動きが、匿名性の否定へとつながるということを、端的に示していると言えるでしょう。
インターネット上の各種悪用事例(違法な誹謗・中傷や違法コンテンツのアップロード等)は、もちろん、許されるものではなく、今後とも対策が講じられる必要がありますが、そういった行為は、「自由」が存在するが故の「濫用」であり、濫用することもできないような不自由な状態、そういった社会が、我々にとっての望ましい社会なのかどうか、ということは、よく考えてみる必要があると思います。
インターネット用の匿名性が排除されれば、即、「寒い国」のような自由のない社会になってしまう、とも単純には言えませんが、匿名性があるからこそ、主張したいことが自由に主張できる、自由な言論が根底から支えられる、という側面も、見逃すべきではないと私は思います。
何事においても、メリットやデメリット、プラス面やマイナス面等々にバランス良く目配りした議論が必要ですが、匿名性の問題についても、そういったバランスのとれた議論、検討が必要ではないかと思います。

「官の世界は暗闇」 友人にメール、誹謗罪で起訴 中国
http://www.asahi.com/international/update/1023/016.html

中国、ブログ・検索エンジンの規制強化

http://www.sankei.co.jp/news/060630/kok116.htm

国務院新聞弁公室の蔡武主任は28日の会議で「ブログや検索エンジンを通じて違法な情報や不健全な情報がまん延しているため、規制に向けて効果的な措置を取る」と表明した。

この主語を、日本国の「総務大臣」「警察庁長官」と変えても、すんなりと読めてしまうところが恐いですね。

蔡主任は「効果的な管理なくしては市場も発展しない」と述べ、ブログサイトの認可基準も導入する考えを表明。これに合わせて、電話契約者の実名登録やすべてのウェブサイトの登録制も導入する方針だ。

中国のような国家が、「匿名性排除」へ向けて必死に動こうとしている意味を、匿名性を考える上では避けては通れないでしょう。

ネット先進国韓国で深刻化するサイバーハラスメント

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0603/06/news019.html

日本でも、今後、こういった傾向がますます強まることが危惧されますが、対策としては、

1 匿名性の縮小、排除
2 教育、啓発の強化
3 実効性ある処罰、紛争解決制度の整備

が考えられるでしょう。
韓国では、上記の記事にあるように、

匿名ユーザーからの攻撃を阻止することを目的に、韓国政府は昨年12月、投稿前にそのユーザーの実名を確認するようWebサイトに義務づけると語った。現在、既に多くの韓国サイトでは、ユーザーがアカウントを取得する前に国が定めるID番号を入力するよう求めており、入力された番号は政府のシステムを通じて認証される。
韓国政府によると、実名認証に関する法案は今年上半期中に国会に提出されるという。

と、1が強化されようとしているようですが、

成均館大学の政治科学教授、キム・ビファン氏は、サイバーバイオレンスは政府の介入によって解決されるものではないと主張する。韓国のインターネット社会の成熟度が技術革新に追い付いていないことが原因だという。
「インターネットユーザーを規制で抑え付ける前に、インターネット社会の自省を促すべきだ。さもなければ、今後も同じ問題が形を変えて生じ続けるだろう」(同氏)

という意見に代表されるように、匿名性を縮小、排除すれば解決するという単純な問題でもないと、私も思います。
当面は、上記の2及び3を、まず進めることが必要ではないかと、この記事を読んで感じました。

「不快感を与えただけで犯罪に」--米国新ネット関連法の危うさ

http://www.japan.cnet.com/column/pers/story/0,2000050150,20095138,00.htm?tag=blogger.cr
http://www.japan.cnet.com/column/pers/story/0,2000050150,20095138-2,00.htm

相当問題が多い法律のようですから(今後の憲法判断も注目されます)、直ちに「だから日本でも同様の立法を」というわけには行かないでしょう。

検察も仰天、「悪質な書き込み」は社会の有識者

http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/01/26/20060126000004.html

検察の関係者は、「悪質な書き込みを書いた人たちを追跡するのにチョソンドットコムの実名制が大いに役立った」とし、「実名制を採択したインターネット新聞にも、このように問題の書き込みが多いのに、実名制ではないインターネット空間ではさらに深刻だろう」と述べた。

建国(コングク)大学の黄勇碩(ファン・ヨンソク)教授は、「黄教授研究グループの幹細胞疑惑を突き止めた生命工学徒らによる匿名掲示板のBRICが代表的なケース」と述べた。教授社会のように序列の秩序が厳しい社会で、弱者の立場にいる研究員たちが萎縮することなく、真実を追求することができたのは、BRICサイトが匿名掲示板だったためという説明だ。

匿名性に関する、韓国での議論の状況が垣間見えて、興味深いものがあります。
有識者」といっても、本当に「有識」かどうかはわかりませんし(自称「有識者」も多い)、そういう人だから良質な書き込みしかしない、というのも、一種の固定観念でしかないでしょう。
ただ、他人に対する誹謗・中傷が許されないのは当然としても、社会的地位等から、実名を出しては言えないことを、インターネット上でいろいろな束縛を受けずに発言している人、というのは、日本でも多いのではないかと思います。誹謗・中傷の意図はなくても、人間ですから、つい言い過ぎてしまう、という可能性はあり、匿名性が否定されてしまうことにより、表現行為に対する強度の萎縮的効果(誹謗・中傷の疑いが生じただけでも容易に身元が判明し社会的地位等を喪失しかねない、との強い不安による)が生じてしまう恐れはあるのではないかと思います。
その辺の判断ができない人、できない場合は、表現を控えろ、ということになれば(1つの考え方ではありますが)、自由、活発な表現というものが難しくなってしまう恐れもあるでしょう。
誹謗・中傷もないが自由もない、という社会を、日本国民の多くが望んでいるとは考えられません。

「匿名性」に関する過去の主なエントリー

自分自身の頭の中を整理するため、拾い上げてみました。

インターネットにおける匿名性について
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20040814#p1
「匿名性」に関する雑感
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20041121#1100963778
匿名性に関する雑感(続)
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20041121#1101002500
「匿名性」の今後に関するイメージ(私見
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20041122#1101051685
内部告発
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20041209#1102593821
インターネット実名制めぐり再度論議沸騰
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050616#1118904552
実名でのネット活用促す 総務省「悪の温床」化防止
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050627#1119832062
「ネットに匿名性は不可欠」――総務省
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050702#1120233980
「ネット事業者は周囲の迷惑を顧みずに利潤を追求してもよいのか?」
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20060108#1136689241