“冤(えん)罪”の深層〜警視庁公安部で何が〜

www.nhk.jp

録画していたものを視聴しました。なかなか考えさせられる内容でした。

私自身、弁護士になる前は検察庁にいて、捜査も数限りなくやって、うまくいった捜査もあればいかなかった捜査もあり、また、問題のある捜査もかなり見てきました。警察からの自演相談を受けたことも多くありました。そういう経験も踏まえて、警察捜査の問題点を改めて感じました。

警察捜査でも、刑事警察系の捜査は、無理矢理にでっち上げてでも、というところまではさすがにいかないのが普通です(普通ではないケースもありますが)。それに対して、警備・公安系の捜査は、特定の目的のため事件を手段として使うことが少なくないため、目的のためには手段を選ばないという、荒っぽい捜査に陥りやすい危険があります。正に、今回取り上げられていた事件がそうで、軍事転用が可能な精密機械の輸出を防ぐという大きな目的の下で事件をやりたいと思うがあまり、証拠をねじ曲げてしまい、捜査員自身が「ねつ造ですね」と証言するようなことになってしまっています。以前、検察が描いた事件の構図に合わなくなったフロッピーディスクを検事が改ざんした事件がありましたが、それと本質的には変わらないでしょう。

こうした事態を防止するためには、警察組織の中で、上に立つ者、決裁官が、証拠をどう評価しても無理があるものは諦めるという潔さ、決断力を持つ必要があります。無理に事件を立てようとした結果、事件は破綻、関係者に多大な迷惑をかけ、このように公共放送で大々的に取り上げられて国民に醜態を晒して、捜査機関として失ったものは計り知れないほど大きいでしょう。

もう一つは、今回の番組では尺の関係なのか取り上げられていませんでしたが、検察が、その持てる機能を十分に発揮して、起訴すべきではない事件を起訴しない、安全弁としての機能を果たすことでしょう。番組を観ていて感じたのは、捜査に時間がかかりすぎており、それが、経済産業省が捜査の見立てに沿った見解をなかなか出さなかったことや、問題となった機械の構造の解明に時間がかかったことなど、起訴にマイナスに働く要素が多々あり、それは、担当検事が見れば容易にわかったはずであるということでした。最終的に、捜査の見立てに沿って、表面上は証拠がきれいにまとまってきていても、担当検事がそれを鵜呑みにせず、疑問を持ちつつ慎重に確認していく、それがきちんと行われていれば、逮捕、勾留や誤起訴にはなっていなかったはずです。

過去にも繰り返されてきた、典型的な冤罪パターンですが、こうして大きく取り上げられた意義は大きく、捜査に携わる者は、こうしたことが起きないように、基本に忠実に捜査を進めていくことを肝に銘じるべきでしょう。

デタラメな捜査、公判活動が繰り返されれば、国民の信頼が失われ協力が得られなくなります。捜査、後半を支えるのは、善良な国民による協力であり、でっち上げで人を罪に陥れるような捜査、公判活動には、善良な国民は協力してくれなくなります。そうなってしまった時、何が起きるかは言うまでもないでしょう。