http://www.asahi.com/articles/ASJ7F4Q81J7FUTIL01C.html
事件は2014年1月に発生。男性2人が複数の男に殴られ、全治2週間と1カ月のけがをした。警視庁八王子署は今年3月、いずれも中国籍の会社経営者2人を逮捕。容疑を否認したが、東京地検立川支部が起訴し、公判中だった。
関係者によると、起訴の主な根拠は被害者や一緒にいた知人の目撃証言だった。知人は事件直後、「犯人は3人組で身長は175センチ、160センチ、160センチだった」と証言していた。
だが、捜査で浮かんだ2人の
この事件についてこういった報道がされているのに接し、かつて某地検にいた際、目撃供述と被疑者像が合わなくて、被疑者が自白しているにもかかわらず不起訴処分にしたことがあったのを思い出しました。
細かいことまでは覚えていないのですが、強盗致傷で起訴した被告人の余罪として、別の強盗致傷事件が送致されてきて、路上かどこかでかなり強度の暴行を相手に加えて金品を奪った、目撃者がいて犯人の顔までは覚えていないが犯人の人相風体は供述し、被疑者も自白している、ということだった記憶です。ところが、目撃者が供述する犯人の人相風体が被疑者とはかなり異なっていて、一件記録を読んでいて、これはいかながものかという強い疑問が生じました。目撃者に直接聴いてみる必要があると考え、勤務していた地検からは離れた場所にいる人でしたが、出張してその地の検察庁で事情を聴いてみましたが、一件記録中の、警察での調書と供述は変わらず、食い違いは解消されませんでした。その際は、被疑者の人相風体に寄せて誘導することをしないように注意して、当時の記憶を慎重に確認する取調べを行いました。
被疑者には、本当はやっていないのならやっていないと言って構わない、実際はどうなのかと聴いてみたのですが、被疑者は、自分がやりましたと自白を維持していました。ただ、供述する様子が、実際に強盗致傷という重大な犯罪を犯したにしては、さらっと浅い感じで供述していて、微妙なところで心証としてこれはどうかと思われるものがあったことも思い出されます。単なる印象で決めるというわけではないですが、聴いて心証が来ない、疑問を感じる、そういう時には要注意というのが、私自身、取調べの際には心がけていたことでもありました。
結局、目撃供述と被疑者像が食い違っていて解消されないので、自白はあるものの他に犯人性を裏付ける証拠もなく、起訴は見送ったほうが良いと考え、上司にも説明して決裁を得て不起訴にしました。上司も、当初は、自白しているのになんで不起訴なんだという態度でしたが、説明すると理解してくれて、不起訴処分にすることについては特に問題なかったと記憶しています。
今でも、あの事件はあの被疑者が犯人だったのか、そうかもしれないな、とは思うものがありつつも、それにしては目撃供述との食い違いが大きくて、やはり起訴は無理だったと思います。やっていないなら、なぜ自白していたかも謎ですが、その当時はまだ若くてそこまで考えてはいなかったものの、何かどうしても発覚したくない件があって、それを逃れるためにやっていない件をやったと言ったとか、警察との間で何らかの表に出せない事情があったとか、何らかの裏があったのかもしれないという気もします。もちろん、真相はわかりませんが。
刑事事件に限りませんが、真相を洗いざらい解明することは、証拠による立証である以上、そもそも限界があって無理であり、そうであるからこそ、刑事事件においては「疑わしきは被告人の利益に」という鉄則が存在するのだと思います。真実は神様にしかわからない、神ではない人間による真相解明に限界がある以上、解明できない場合は、特に刑事事件においては謙虚に、内輪内輪に手堅く、ということは、今後もあるべき姿であり続けるでしょう。