小沢元代表裁判「判決骨子」全文

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120426/k10014737421000.html

本件で、客観的に、政治資金収支報告書の虚偽記入が行われていた、という裁判所の認定は、自然かつ合理的で首肯できるものがありますね。
意外であったのは、その後のところで、裁判所が、

本件土地公表の先送りや本件4億円の簿外処理について、石川ら秘書が、被告人に無断でこれを行うはずはなく、具体的な謀議を認定するに足りる直接証拠がなくても、被告人が、これらの方針について報告を受け、あるいは、詳細な説明を受けるまでもなく、当然のことと認識した上で、了承していたことは、状況証拠に照らして、認定することができる。
さらに、被告人は、平成16年分の収支報告書において、本件4億円が借入金として収入に計上されず、本件土地の取得及び取得費の支出が計上されないこと、平成17年分の収支報告書において、本件土地の取得及び取得費の支出が計上されることも、石川や池田から報告を受け、了承していたと認定することができる。

と認定している点で、状況証拠を積極的に評価して、そこまで踏み込んでいるのは、最近の状況証拠積極活用、という流れに沿っていると言えますし、この認定には、異論も大いにあるところでしょう。私自身も、報告・了承を認めた池田氏の供述調書もあったとはいえ、状況証拠を中心とした証拠構造でここまで認定できるのか、素朴に疑問を感じます。
裁判所は、その上で、

しかし、被告人は、本件合意書の内容や交渉経緯、本件売買契約の決済日を変更できず、そのまま決済されて、平成16年中に本件土地の所有権が陸山会に移転し、取得費の支出等もされたこと等を認識せず、本件土地の取得及び取得費の支出が平成17年に先送りされたと認識していた可能性があり、したがって、本件土地の取得及び取得費の支出を平成16年分の収支報告書に計上すべきであり、平成17年分の収支報告書には計上すべきでなかったことを認識していなかった可能性がある。
また、被告人は、本件4億円の代わりにりそな4億円が本件土地の購入資金に充てられて借入金になり、本件4億円を原資として設定された本件定期預金は、被告人のために費消されずに確保されると認識した可能性があり、かえって、本件4億円が、陸山会の一般財産に混入し、本件売買の決済等で費消されたことや、本件定期預金が実際には陸山会に帰属する資産であり、被告人のために確保されるとは限らず、いずれ解約されて陸山会の資金繰りに費消される可能性があること等の事情は認識せず、したがって、本件4億円を借入金として収支報告書に計上する必要性を認識しなかった可能性がある。
これらの認識は、被告人に対し、本件土地公表の先送りや本件4億円の簿外処理に関し、収支報告書における虚偽記入ないし記載すべき事項の不記載の共謀共同正犯として、故意責任を問うために必要な要件である。
このような被告人の故意について、十分な立証がされたと認められることはできず、合理的な疑いが残る。

という判断を示していて、上記のような「犯罪成立を妨げるような認識を持っていた可能性」は、特に本件のような知能犯事件では、状況証拠では排斥しきれない性格を本質的に持っているもので(だからこそ供述調書を作成してそれで立証する必要がある、ということでもあるのですが)、元々の証拠構造の限界が、犯罪を認定する瀬戸際の、ぎりぎりのところで露呈して、辛うじて有罪判決が出なかった、というのが、この判決の特徴と言えると思います。
ただ、ここまで判決が認定しているということになると、強気で犯罪事実を認定する裁判所(代表的なのは東京高裁ですが)が、状況証拠を駆使して、「犯罪成立を妨げるような認識を持っていた可能性」を排斥する、故意や共謀まで踏み込んで認定してくる、ということも、あり得ないことではなく、私が、以前から言ってきている「無罪9割、有罪1割」の、1割になってくる可能性も、高くはないものの、まだ残っているでしょう。強気認定の立場からは、小沢氏は首の皮一枚で辛うじてつながった、と見ることもでき、控訴されれば、そこは再び問題になってくると思います。
小沢氏や弁護団としては、無罪を手放しでは喜べず、今後について予断を許さないものがあるのではないか、というのが私の見方ですね。