証券取引法違反事件の量刑事情

コメント欄で、実刑判決の可能性ということを言われている方がおられましたが、証券取引法違反という罪名だけで、実刑判決が宣告された例は、おそらく、ほとんどないと思います。他に起訴された犯罪も含め、実刑になった事例は、なくはない、と思いますが。
その理由として考えられるのは、
1 起訴された被告人が、企業経営者など、いわゆる「ホワイトカラー」である場合が多く、通常は前科がない
2 動機が個人の利得のためではなかったり、また、犯罪により得た個人の利得が少ない場合が多い
3 個人の利得が多い場合であっても、追徴の対象になり、剥奪されることになる
4 「個人の被害者」というものが観念できないのが通常(「市場や国民全体が被害者」という場合が多い)
5 被告人が、社会的制裁を大きく受けている場合が多く、その点が量刑上も考慮される
といったことではないか、と思います。
ただ、こういった従来の量刑事情が、今後も維持されるか、維持されるべきかは、別問題でしょう。特に、上記の4のように、「市場や国民全体が被害者」であるという場合、事件によっては、その被害には重大、甚大なものがあります。証券取引法が保護しようとしている法益(法によって守られる利益)の重要性、現在の日本、世界における健全な証券取引の重要性、といったことを考えると、従来、執行猶予に付されていたような事件であっても、今後は実刑を宣告すべき、という事案が増加する可能性が高いのではないか、と思います。
その意味では、今回のライブドア事件で、起訴される人々が出た場合に、裁判所が、従来の量刑相場を踏襲せず、踏み込んだ判断をする可能性はあると言えるでしょう。