法科大学院について(補足)

昨日のエントリーだけ見て、「建設的ではない」といった印象を抱いている方もいるようですが、例えば、

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20041103#1099449239

あたりを見ていただくと、私の考えていることがわかると思います。
抽象的にしかものを考えていない方には、なかなか理解が得られにくいところですが、日本の法曹教育において、司法研修所が果たしてきた役割には多大なものがあります。私にしても、小倉先生にしても、他の法曹にしても、司法研修所での教育を経て、社会に出ており、実際に仕事をしてみると、司法研修所での教育はありがたかったな、役立つ教育だったな、と思っている人が非常に多いはずです。
そういった司法研修所制度を存置することが、今後の制度を考える上での前提になっているはずであり、合格者3000名という数字も、その中で出てきているはずです。司法修習では、指導担当者が司法修習生に対して個別に指導を行っており、今後、合格者の増加に伴って工夫をするとしても、指導担当者の確保等の問題もあり、これを5000名とかそれ以上にする、ということは至難の技ではないかと思います(可能であれば増加させても良いと思っていますが)。
したがって、当面は、合格者3000名という数字を大きく増加させることは困難であり、この数字の中で進めて行くしかないでしょう。
司法研修所を廃止し、司法試験合格者を大幅に増加させるというのも、一つの考え方であり、否定はしませんが、もし、そういった道を選択するのであれば、「質の確保」に関する実効性のある手当てが不可欠でしょう。よく、「市場での競争」を口にする方がいますが、一生に一度あるかないかという訴訟で、極めて問題のある弁護士に引っかかって全財産を失うといったことが続出するようなことになれば、耐え難い事態になってしまいます。競争によって淘汰される前に、「資格」を信用した人が多大な迷惑を被るような事態を防ぐために、資格を与える側が、それなりに慎重に選抜や教育を行うことは、競争原理と矛盾しませんし、むしろ、そうするのが資格を与える側の義務でしょう。たとえば、自動車運転免許を与える上では、走って曲がって止まることができる能力だけ見ればよい、免許取得後に違反が重なったら免許を取り消せばよい、といったことになって問題のあるドライバーが道路を走り回れば、子供がはねられて亡くなったり、高速道路での逆走事故で悲惨な結果になったり、深刻な事態が生じかねません。
そもそも、新司法試験と新司法修習のスキームでは、現在、司法研修所で行っている前期教育(実務修習に入る前に行われている集合教育)の部分は、法科大学院で行うことになっているはずですが、現状を見たとき、強い不安を感じるのは、おそらく私だけではないでしょう。「実務教育」と言葉で言うのは簡単ですが、司法研修所の前期教育では、一件記録を読み込んだ上での、民事裁判科目での事実整理とか、検察科目での起訴状作成、不起訴裁定書作成など、法曹が日常的に行っている業務について、一通り(もちろん、まだまだ不十分ですが)できる程度にまでは持って行くようにカリキュラムが編成されており(必然的にかなりハードな内容です)、こういったあたりについて、現在、既に「努力」されている法科大学院が、どこまできちんとフォローされるのか、よく見させていただきたいと思っています。
いろいろとバラ色の夢を語るのは楽しいことですし、10年後、20年後を見据えた長期的な議論をすることも大切だと思いますが、現実的な問題として、既に法科大学院で学んでいる人が、着実に能力を伸ばし、できるだけ合格するのが望ましい、というのが私の考えであり、それで、

2010年までの新司法試験については、現行のロースクール生をできるだけ法曹として生かすという観点から、合格者数を、現行司法試験に比し、傾斜して配分する(但し、「質」の確保という観点から、択一試験は新・現行司法試験共通とし、新司法試験受験者は、現行司法試験受験者の合格最低点を「目途に」、それをクリアしていることを求める)

といったことも述べているわけです。
ただ、繰り返しになりますが、法曹への道は楽なものではないし合格後も地道な勉強は必要で、そういった道に進もうとしてる人に対して厳しい選抜が行われることは不可避だと思いますし、「努力しているんだから合格させろ、合格率が低いと制度が崩壊するだろう、話が違うじゃないか」といった、一種の「エゴ」「居直り」に立脚した主張は、法曹関係者だけでなく、広く国民一般の理解を得ることも難しいだろう、と強く感じます。
なお、私個人としては、弁護士の数がいまの数十倍になっても、何ら困らないし、きちんとした選抜、教育が行われた上で大幅に増えた法曹間での競争というものは、むしろ好ましいと考えていることを付言しておきます。