winny公判について(補足3)

いただいたコメントに関連して、更に若干の補足を。

ゴースト 『そういえば、47氏は逮捕前の在宅調べで、御自身の意見を詳細に主張して、それを調書に書いてもらったと言っていた、という話を耳にしたことがあります。』

被告人の捜査段階における「自白」(特に、身柄拘束前に作成された供述調書)が、検察庁の起訴判断に影響を与えた可能性はあると思います(調書自体を見ていないので、あくまで推測ですが)。
その調書については、「被告人本人でなければ語ることが難しい表現があった。」という噂話も聞きましたから、それが、検察官冒頭陳述のベースになっているような内容のものであれば、弁護人としては、その調書の真意とか、あるいは、その調書の内容が不正確、一面的なものであり、真意は別のところにあって実はこうだ、ということを、ある程度時間をかけても立証する必要があるでしょう。

tedie 『以前の冒頭陳述のご紹介で、被告人の著作権についての考えが述べられたので、それと連動して、検察官が「確信犯」としたのかと思ったのですが、事実面でも相当きちっと故意を立証するつもりなのですね。』

私は、正にそのように推測しています。検察官の冒頭陳述で、ウイニーの開発段階からの被告人の動機とか、その後の「確信犯」としての被告人の行動などが詳述されていましたが、それは、「正犯の著作権侵害行為を確定的に幇助する」という被告人の主観面を、強固なものとして立証するという目的によるものであったと思っています。

tedie_mac 『もし故意の面で検察官の立証が成功すると、幇助を否定する論理は許された危険しか残っていないかもしれませんね(個人的には客観的帰属論でいきたいのですが、裁判所がとるはずもないし)。この場合は、たんに社会的相当性があるとか、社会的に許容されているというのではなく、詳細な利益考量をして、一定の基準を提示しないといけない気がします。』

おっしゃるとおりだと思います。「客観的帰属論」という考え方は魅力的ですが、刑事司法実務では、そのような考え方を取り入れる素地すらなく、10年後、20年後ならともかく、本件の公判でそのような考え方が取り入れられる可能性は皆無です。また、検察官がもくろむ故意の立証が、冒頭陳述で詳述されていた動機面も含め、仮に成功したとすると、そのような心理状態に基づく行為について、幇助犯の成立を否定するためには、よほどの説得的な理由付けをしないと、苦しいのではないかと思います。科学技術の進歩といったプラス面と、そのことによる著作権侵害などのマイナス面を、人類の歴史の中での科学技術進歩の歴史にも思いを致すなどしながら(例えば、蒸気機関車が発明されたことにより排出する煙で沿線の樹木とか農作物などに被害が出たとしても、そのことにより蒸気機関車が全面的に禁止され開発者が処罰されていれば、我々が利用している新幹線もあり得なかった、とか)、比較考量して行く必要があると思います。

ゴースト 『47氏御自身が次々投稿したとされる“2チャンネル”のイタのコピペもってますが、これを本当に47氏が書いたとする証拠を検察側が握っていたら……大変です。』

これは何とも言えませんが、起訴前に、被告人自身が書き込んだものかどうかについて、相当突っ込んだ捜査が行われていることは間違いないと推測しています。仮に、証拠関係上、個々の投稿について、被告人自身の書き込みかどうかが断定できないとしても、検察官は、個々の投稿と、①ウイニーの開発、改良状況(時系列的な)②被告人から知人あてのメールの内容などの、裏付け(日時も含め)が取れる被告人の言動③被告人の供述調書の内容を相互に関連させつつ、「書き込みが被告人自身のものである可能性が極めて高い」という立証を行い、裁判所に対しては、「書き込みは被告人自身のものである」と立証した場合とほとんど同様の心証をとらせる、ということを狙う可能性が高いでしょう。