以前、私は、8月25日のブログの中の「winny開発者の刑事責任について(その5)」で、
これまで述べたところをまとめると、winny開発者の刑事責任を否定できる論拠としては
1 処罰するにあたり必要な「確定的故意」の不存在(構成要件的故意ないし責任故意の不存在)
2 許された危険ないし社会的相当行為としての違法性阻却
のいずれか、または、双方ではないか、というのが、現時点での私見ということになる。
と主張し、上記の2について、根拠条文として、
刑法第35条 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。
を挙げました。
「分析・その3」までで分析したように、今後、被告人は「確信犯」であり「確定的故意」があったとする検察官と、可能性の認識しかなかった、とする弁護人の間で、その点について、熾烈な攻防が繰り広げられることが予想されます。
そして、私見としては、弁護人は、幇助犯が成立しない根拠として、「許された危険」ないし「社会的相当行為」といった明確な法的根拠を提示し、根拠条文としては、刑法35条を示すのが、一つの選択しうる現実的な方法ではないかと考えます。
刑法上の犯罪構成要件の機能については、違法な行為を類型化したもの(違法類型)とする考え方が有力ですが、刑法35条に該当すると類型化できるような性質の行為であれば、違法性を否定する前に、まず、構成要件該当性を否定できる、とする余地は大いにあると思います。特に、幇助犯は、「補充を必要とする構成要件(開かれた構成要件)」とされていますから、類型的に見て、許された危険、社会的相当行為に該当するような行為は、そもそも構成要件該当性が否定される、という考え方も、十分成り立ちうるのではないかと私は考えます。
弁護人が、社会的に有用なソフトを開発、配布する上では悪用の可能性自体を完全に排除することはできず、そういった可能性を理由に開発や配布等の行為を禁止するようでは技術の進歩はありえず、そういった危険は、正に「許された危険」であり、また、社会的にも相当な行為であって、幇助犯の構成要件にそもそも該当しない、仮に構成要件には該当したとしても違法性がない(違法性が阻却される)、被告人の行為は、「正当な業務」そのものであった、という主張を展開することで、弁護人が、被告人にとって有利な方向で立証する諸事情を、「許された危険」、「社会的相当性」、「正当業務行為」を支えるものとして活用することができるのではないかと私は考えています。
(一応、終わり)