「長篠合戦 鉄砲戦の虚像と実像」

 

大河ドラマ「どうする家康」でも、長篠・設楽原の戦いは重要な場面として描かれていましたが、この戦いほど、織田・徳川連合軍による大量の鉄砲対武田騎馬軍団の戦いで後者が敗北という鮮烈なイメージと、よくわからない実像の乖離が激しいものはないという気がします。本書は、様々な文献、屏風絵等を駆使しつつ、この戦いに対する世間一般の認識の変遷や実像に迫ろうとするもので、その実証的なアプローチには参考になるののを感じました。

いろいろと読んできて感じるのは、織田・徳川連合軍と武田軍では、前者が兵力的に後者を圧倒しており、鉄砲についても、自ずと前者が後者を圧倒していたものと思います。武田側はそこを見誤っていた可能性が高い上、織田・徳川連合軍が、有名な馬防柵を設けて防御的に臨んだのに対し、攻勢で臨んだ武田軍が、設楽原の凹凸が激しく、横に広く展開しては前進しにくい地形から、馬防柵に阻まれつつ各個撃破される状態になっていったという、そこに勝因、敗因があったように思います。背景には、武田軍が、背後の長篠城が攻略されてしまったことで、前進して織田・徳川連合軍を撃破する攻勢に出るしかなかったということもあるでしょう。そういった複数の要因を丁寧に見ていくことが、この戦いの実像に迫る上で重要ではないかと改めて感じるものがあります。