織田信長 (ちくま新書)

織田信長 (ちくま新書)

織田信長 (ちくま新書)

ちょっと前に買って、まだ読んでいなかったのを、最近になって割と一気に読みました。
織田信長、というと、既成の秩序(中世の室町幕府体制)を新秩序に改めて君臨しようとした、「天下布武」という印を早くから使用していたのはそのような野望、志の現れ、といった印象を持たれがちで、かくいう私もその1人です。
本書では、そういった幅広く流布している織田信長像について、実際はそうではなかったのではないか、という観点で、史実や史料を検証しつつ論じていて、織田信長に関する本として私が読んだ中では、結構、おもしろいほうに入るものでした。
なるほどな、と思ったのは、例えば、天下布武の「天下」の用法には、当時、いろいろとあって、織田信長としては、畿内を室町将軍が支配し、その支配を通じて日本全国に影響力を及ぼす体制を意識していたのではないか、それを盛り立てようというのが当初の意図だったのではないか、といった指摘で、他にも様々な指摘がされていて、織田信長像を考える上で参考になりました。
その後の豊臣秀吉徳川家康とは異なり、織田信長は統一の途上で横死し、その目指していたものがよくわからない面が多々あって、そこが逆に想像をふくらませることにつながっている面もあります。ただ、織田信長も中世末期、戦国時代に生を受けた人物であり、中世的な考え方、価値観には影響を受けていたと考えるのが自然で、保守的な部分と革新的な部分の併せ持っていたのではないかという気が私にはします。後者が過度に強調される傾向にあったのが、前者にもきちんと光を当てようという流れが出てきていることで、歴史学の世界で、バランスのとれた、より実態に迫った織田信長像が徐々に構築されつつあるように思います。