詐欺の「受け子」に無罪 現金突き返したバイク便の男性:朝日新聞デジタル
男性は昨年11月、「現金が至急必要」という孫を装った電話を受けた都内の女性(当時77)宅を、バイク便のアルバイトとして訪問。150万円を詐取しようとしたとして、待ち構えた警察官に逮捕された。判決は、男性が昨年10月にアルバイトに応募した際に不審な点が特になかったうえ、「150万円在中」と書かれた封筒を渡されて「現金は預かれない」と突き返した点を重視して、「詐欺の認識を推認できない」と結論づけた。
私は、検察庁を辞める直前に、5ヶ月ほど、千葉地検で薬物密輸の運び屋の否認事件を何件も担当して、故意の認定に苦労した経験があります。記事にある受け子についても、おそらく基本的な構造は類似していて、近く、最高裁で何らかの基準的なものが打ち出される可能性があるようですが、そういう基準的なものが出たとしても、事実関係が全く同じ事件はありませんから、ケースバイケースで慎重に判断すべきことは変わらないでしょう。
捜査する側は、どうしても、またこいつも否認で嘘ついているのかと、そういう発想になりがちですが、中には真実を語っている被疑者、被告人もいるものです。記事によれば、「150万円在中」と書かれた封筒を渡されて「現金は預かれない」と突き返した、とあり、そういう事実は詐欺の犯意と両立しない、少なくとも合理的な疑いを生じさせ得るものと言えます。
頭から決めつけて臨むのではなく、弁解にも真摯に耳を傾けて、起訴すべきでないものを合理的にドロップすることも、検察の重要な役割であることが認識される必要があると思います。