余罪と執行猶予

例の「お塩先生」の件で、今後、余罪が立件された場合に執行猶予が付される余地があるのか、ということも話題になっているようですが、執行猶予付きの有罪判決を受けた後に、そのような事態になった場合の処理ということについて、ちょっと整理しておきたいと思います。なお、お塩先生が、今後、余罪で立件されるとか有罪になる、といった趣旨で言っているのではありませんので、誤解のないようにお願いします。
なお、手元にあった

裁判例コンメンタール刑法 第1巻

裁判例コンメンタール刑法 第1巻

がわかりやすかったので、それを参考にしています。
刑法では、

(執行猶予)
第25条 次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その執行を猶予することができる。
1.前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2.前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第1項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

という規定がありますが、ここで注意しなければならないのは、本件で余罪が立件された場合、それは、刑法で

併合罪
第45条 確定裁判を経ていない2個以上の罪を併合罪とする。ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。

とある、確定裁判の前の併合罪関係に立つ余罪である、ということです。そういった余罪については、

(余罪の処理)
第50条 併合罪のうちに既に確定裁判を経た罪とまだ確定裁判を経ていない罪とがあるときは、確定裁判を経ていない罪について更に処断する。

とされていて、その「処断」の際、執行猶予を付すべき条件はどうなるかが問題になります。
この点については、上記のコンメンタール471、472ページに

余罪と執行猶予との関係では、執行猶予を言い渡された罪の余罪について刑を言い渡す場合には、何らの限定なく25条1項によって執行猶予を言い渡すことができるが(最判昭和32・2・6刑集11・2・503)

とあって、25条2項の問題ではなく、1項の問題として、そこでの要件を満たすことで執行猶予は付し得ることになります。ここは、よく、2項の問題と誤解されやすいところなので注意が必要でしょう。
それでは、余罪について執行猶予が付されず実刑になった場合、前に執行猶予が付された件はどうなるのでしょうか。刑法では、その点について、

(執行猶予の必要的取消し)
第26条 次に掲げる場合においては、刑の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第3号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第25条第1項第2号に掲げる者であるとき、又は次条第3号に該当するときは、この限りでない。
1.猶予の期間内に更に罪を犯した禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。
2.猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。
3.猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。

と定められ、上記の中の2号により、前に執行猶予が付された件については、執行猶予が必要的に取り消されることになります。したがって、後から起訴された事件につき判決を宣告し実刑とする裁判所は、前刑の執行猶予が取り消されることを考慮した上で量刑を決めるはずであり、刑期を予想するにあたっては、そういった事情も考慮しておく必要があると思います。
この点について興味ある方は、上記のコンメンタール等で確認してみてください。