太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 上

太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 上

太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 上

上下巻のうち、上巻をほぼ読み終えようとしているところですが、実に興味深く、役立つ内容ですね。
この時期を取り上げた類書はかなりありますが、真珠湾作戦なら真珠湾作戦だけ、ミッドウェイ海戦ならミッドウェイ海戦だけをメインで取り上げて、その前後については触れても、本書のように、「真珠湾からミッドウェイまで」を、連続するものとして取り上げている戦史書はほとんど見ることがありません。それだけでなく、本書では、日本、連合国の、どちらに遍するわけでもなく、史実を丹念に追うというスタンスで執筆され、しかも、日本、連合国(特に米英)の政治、軍事の重要人物について、そのプロフィールや当時の行動、その背景にある考え方、性格に至るまでフォローしていて、内容に厚みを出しています。
上巻では、真珠湾奇襲で不意をつかれ(「陰謀論」には立っていません)、大きな打撃を受けた米国の動揺や焦燥を克明に描き、そこから徐々に反攻に転じるところで終わっています。真珠湾作戦が、戦術面では成功したものの、それまで戦争への介入に踏み切れていなかった米国世論を憤激させ国を挙げての戦争突入へと転回させたことや、これは結果論かもしれませんが戦艦を中心とした艦隊同士の決戦というそれまでの戦術を大きく転回させて空母を中心とした航空戦力により制空権、制海権を握り敵を圧倒するという方向へ大きく舵を切らせることになったことなど、戦略面では果たしてどうだったのか、むしろ失敗だったのではないか、といったことを、改めて考えさせられました。
戦術家は、目で見える先にある勝利を目指すものですが、戦略家は、目で見える先にあるものの、さらにはるか先にあるものまで見据える先見性、洞察力を持たなければならず、そういった戦略の能力、才能は希有なもので、そういう能力を持つ人物をいかに見出し枢要な地位に就けるかが、様々な組織や国家における課題であろう、ということも強く感じました。